2016.05.30

市川染五郎が東北の英雄を熱演! シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』インタビュー

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心揺さぶられる壮大なドラマ、勢い溢れるアクション、そして400年の長きに渡り受け継がれてきた歌舞伎の様式美を体現しながら、かつてない新感覚のエンターテインメントとして誕生したシネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』。
去年7月に新橋演舞場で上演され大好評を博した『阿弖流為』が、シネマ歌舞伎として生まれ変わり、6月25日(土)よりMOVIX仙台・MOVIX利府他、全国57の映画館で公開されます!

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物語の舞台は、国家統一を目論む大和朝廷とそれに反旗を翻す北の民・蝦夷(えみし)が熾烈な争いを繰り広げていた時代。そんな東北に縁ある※蝦夷の長・阿弖流為を演じた市川染五郎さんが、公開に先駆けて来仙。作品に対する想いを語っていただきました!

※阿弖流為…平安時代初期に現在の岩手県奥州市付近を根拠地としていた蝦夷の指導者。蝦夷の制圧を目指す朝廷軍に抵抗し何度か勝利するが、最後は征夷大将軍の坂上田村麻呂に敗れて802年に処刑される。

阿弖流為は自然と共存している男

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『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』を演じて、いかがでしたか?
歌舞伎NEXTと題して新しい歌舞伎を作ろうと取り組みましたが、じゃあ新しい歌舞伎というのは何なんだ?と考えていくうちに、最終的には思い切って面白いもの、驚いてもらえるものを作ろうというところに行き着きました。このシーンで見得をしたら(物語の重要な場面で演技を止めてポーズを取ること)、この場面で六方を踏んだら(手と足を大きく振り力強く歩く演技)格好いいんじゃないかと、自然な高揚感のなかで演出が生まれていった作品です。見得をする、六方を踏む、セリフを朗々としゃべるという歌舞伎ならではの演出を、純粋に格好良く感じていただけるのではないかと思っています

演じられた阿弖流為というキャラクターについては? 影のある男という印象もあります。
とても孤独な男だなと感じましたね。蝦夷の人間として生まれ、蝦夷の長として生きていくことをまっとうしながら、自分の持っている想いをさらけ出す相手も場所もない。それだけに田村麻呂(※中村勘九郎演じる阿弖流為のライバル)という人物に出会えたというのが救いだった。ただ彼が敵であったというのが悲劇ですけれど、でも田村麻呂に出会えたことは阿弖流為の人生にとって幸せなことでしたよね

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    ご自身と共通する点はありますか?
    共通というか、憧れますね。自分の想いがぶれずに生き抜いたという点においては、男が惚れる男ですよね。劇中で、(朝廷が)攻めて来るから戦うんだ、攻めて来なければこちらからは刃を向けないというようなセリフがありましたが、人々はもちろん、土地、水、緑、空、それらが侵されるのであれば命をかけて戦う。そんなふうに自然と共存している人物なんだなと

印象的なシーンは?
両花道で阿弖流為と田村麻呂が名乗りあうシーン。お互いに敵同士、刃を交じえ合う間柄というのを感じながら出会う。稽古中から面と向かってセリフを言い合いながら、稽古のひと月、公演中の2カ月間、彼とこの演技が出来るんだということに毎回込み上げてくるものがありました。中村勘九郎くんとはぜひ一緒に新しい歌舞伎を作ろうとお願いしてこの舞台が実現しましたし、稽古中からど真ん中ストレートの投げ合いといいましょうか…それが毎日幸せでしたね

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歌舞伎ならではの美しさを見つけにきてください!

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    さきほど中村勘九郎さんのお話も出ましたが、勘九郎さん、七之助さんとの共演も見どころのひとつですね。
    勘九郎くんとは両花道で相対するのが幸せだと思いながら毎日演じていて、映像を見ていただければ分かりますが非常にギラギラとした魅力があります。七之助くんには、本当に女方の格好良さを感じました。はじめに殺陣をつけたのを見たときに直接言いましたね、『女方って格好いいね!』って。それがこの作品には必要だったんです。格好いい女というのはなかなか難しい。逆に七之助くんからは、田村麻呂との名乗り合いの後に花道に引っ込んでから『格好いい』と言われて、うちうちで褒め合うというなんだかよく分からない感じに(笑)。とにかく長丁場でしたし、緻密に作りあげていく作品だったので、集中力、根気、体力が必要でしたが、稽古中からまったくスピードが落ちることなく初日に向かっていけたのは彼らの存在が大きかった。がんばろう!とか僕はそういうことはあまりする性質ではないんですが、稽古からお互いに出してくるもので刺激し合っていました

歌舞伎NEXTはセリフも分かりやすく、あまり歌舞伎に馴染みがない人も面白く観られるつくりになっていると感じました。歌舞伎初心者がより楽しむための観劇ポイントなどはありますか?
どこをどう見たらというのはあえて言わないことかなと思います。今はすべてにおいてナビの社会であるので、逆に探しにきてくださいと。必ず引っ掛かるものがありますから。歌舞伎には音楽、色彩、表現方法など、他のジャンルにはない独特な美しさがあります。男が演じる女、女では演じられない女という存在の女方もそのひとつ。ストーリーを追うだけがお芝居の見方ではないというのが歌舞伎の面白さなので、一度見に来ていただけたら、その人でないとわからない面白さを見つけていただけるのでは

あらためて歌舞伎NEXTの魅力とはなんでしょう。
歌舞伎NEXTという新しいジャンルも、古典の歌舞伎が基礎にあるからこそ。セリフも音楽的な言葉なのでただただ感情的にしゃべってはいけない。アクションや立ち廻りがたくさんありますけど、それも踊るように美しく見えなくてはならない。殺し合いでさえも美しく見える、そんなところが歌舞伎の特徴ですが、それを音楽や照明や言葉など現代の材料を使って尖がったものに作りあげた舞台が歌舞伎NEXTなのではと思いますね

スクリーンでご覧になった感想は?
舞台より面白いと思いました(笑)。舞台にはできない、映像でないと出来ない阿弖流為に生まれ変わっていて、今までにない感覚を存分に味わっていただけると思います。生でやるのが舞台の魅力ですが、生の舞台がそのまま残ってしまうところがシネマ歌舞伎の武器ですね

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最後に東北の方へメッセージを!
海の物も山の物も美味しいという、とても贅沢な場所。里というと大げさかもしれないですけど、阿弖流為を演じて特別な土地になったなと感じています。役作りで阿弖流為の縁の地を訪ねるなか岩手の※達谷窟(たっこくのいわや)にも行きまして、あまりの美しさにこのまま歌舞伎の舞台になるんじゃないかと思いました。※猊鼻渓(げいびけい)の水の色や岩の大きさもそうですし、そのまま浮世絵になる世界だなと。これを歌舞伎で演じるなんて、僕はよくこんないいことを思いついたなと自画自賛しました(笑)。いろいろな題材を探しているなかで出会った阿弖流為という人物をこのような形で舞台にでき、シネマ歌舞伎になり、いろんな形でみなさんに阿弖流為がお見せすることができて、僕自身思い入れの強い人物であるだけにとても嬉しく思っています

※達谷窟…平泉町にある毘沙門天をまつった堂。『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』にも登場する朝廷の征夷大将軍、坂上田村麻呂が蝦夷を討伐した記念に建造
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    ※猊鼻渓…一関市東山町にある国指定名勝の渓谷。高さ50メートルを超える岸壁の間を手漕ぎ船で舟くだりが楽しめる。

『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』

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2016年6月25日(土)より、MOVIX仙台・MOVIX利府にて公開!
出演 市川染五郎、中村勘九郎、中村七之助ほか
製作・配給 松竹

≪市川染五郎 舞台あいさつ付上映会開催!≫
日時 7月8日(金) 13:40の回終了後(17:00ごろ~)
場所 MOVIX仙台(仙台市太白区長町7-20-15 ザ・モール仙台長町Part2内)

◆チケット販売
①SMTメンバーズ会員限定先行販売
6月4日(土) ・WEB 0:00~
      ・窓口 劇場オープン~
②(①にて残席があった場合のみ)一般発売
6月11日(土) ・WEB 0:00~
       ・窓口 劇場オープン~
◆料金:一般2,100円 学生・小人1,500円

【ライター 鈴木紘子】

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