国民的映画『男はつらいよ』シリーズ終了後、約20年ぶりに山田洋次監督が手がけた喜劇映画『家族はつらいよ』。2016年に公開され、日本全国の劇場を大きな笑顔で包み、観客動員数120万人、興行収入13.8億円を記録。そんな前作から1年。続編が決まったときの心境を聞くと…。家長の橋爪功さんが「こんな感じですよ」と言って、次男・庄太役の妻夫木聡さんとハイタッチ。パン! 「こんな感じですね」と妻夫木さんもニヤリ。ファンもキャストも待望の『家族はつらいよ2』、ついに公開しました!
周造(橋爪功)と富子(吉行和子)との離婚騒動から数年――。
周造はマイカーでの気ままな外出をささやかな楽しみにしていたが、車に凹み傷が目立ち始めていた。高齢者の危険運転を心配した家族は、運転免許を返上させることを画策する。
しかし、頑固オヤジをいったい誰が説得するのか!? 嫌な役回りを兄妹夫婦でなすりつけ合ううちに、平田家はまたもや不穏な空気に包まれていく―。
そして土曜日、周造の免許返上問題を話し合う家族会議が開かれることになり、例のごとく召集された平田家の兄妹夫婦たち。だが、家族会議は一転し事態は思わぬ方向に…。
果たして、平田家は再び平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
おなじみとなった平田家のメンバーが再集結! 熟年離婚を乗り越えた夫婦に橋爪功×吉行和子。長男夫婦を西村雅彦×夏川結衣、長女夫婦を中嶋朋子×林家正蔵、次男夫婦を妻夫木聡×蒼井優が最高のアンサンブルで演じます。さらに、小林稔侍、風吹ジュン、笑福亭鶴瓶ら山田組常連の豪華キャストも見もの。
いい意味で遠慮がない、ほんとの家族みたいな8人
前作からパワーアップした部分は?
妻夫木:前作にも増して、喜劇感がふんだんに取り入れられています。今回は、演出を現場で足すことが多くて。さんざん熟考した脚本なのに、簡単に足して大丈夫なのかな?と思ったりもするんですが、山田監督の頭の中にはしっかりと計算式があって、ハマっているんですよね。その場でパッパッパッと、「これ言って」「あれやって」って。とっさに言う言葉もすごくおもしろい。山田監督がパワーアップしましたね!
橋爪:楽しいらしいよ。自分が書いた台詞を、生身の役者が言っているの。ましてやこの8人じゃ。役者が動き出すたびに、ちょっと言いたくなる、もっとやりたくなるって、山田監督がおっしゃっていました。
現場の雰囲気はどんな感じですか?
妻夫木:わりとピリッとした空気でやっています。喜劇って難しくて、自分たちがおもしろくなっちゃうと、おもしろいものが撮れなくなっちゃったりする。監督のおっしゃることをひとつひとつ聞いて、それにこたえられるように集中力を高めている、って感じですね。
いい意味で、みんな一緒にいることに遠慮がなくなってきているから、控える場所とかはバラバラで。ほんとの家族っぽいですよ。メシのときだけ揃う、みたいな(笑)。
橋爪:『東京家族』から数えると、もう4年も同じメンバーで一緒にやっているから、余計な気遣いをしなくて済むようになった。わざわざ一緒にいる必要もないし、お世辞言う必要もない。役者として芝居のことだけを考えて、演技に集中できるわけですから、すごーく楽! 毎朝撮影所へ行けば、自然に仕事のモードになれる。ありそうでなかなかないんですよ、そういう現場。ありがたいです。
演技で苦労した点は?
橋爪:あらゆるシーンでちょこちょこっと苦労しています。監督はそのシーンを画面の中に十分に収めたいと思って、一生懸命撮影しているわけですよね。そんななかで、あ、今ここで座っちゃったけど座る位置大丈夫だったかなとか、ちょっと声張りすぎたかな…とか、ずっとあれこれ考えていますよ。
(妻夫木さん、クスッと笑う)
橋爪:なんで笑うんだよ(笑)!
妻夫木:いや(笑)、みんな一緒なのかと思って。橋爪さんでもそうなんだ。
橋爪:俺でも、って? いやぁ、俺そうだよ。それに、人の言った台詞に聞き惚れちゃうのよ。自分以外はみんなよく見えちゃう。この家族だと特に。余計に不安になって、自信のなさにつながってね。撮影が終わって帰るときにはもう、この世のものじゃない顔をしていますよ。
妻夫木:そうですか?
橋爪:ちょっと言い過ぎですけど。
妻夫木:ちょっと言い過ぎでしょ(笑)。大体、蒼井優がいいとこ持って帰る。
橋爪:そうなんだよ。
確かに、蒼井さんのシーンでグッとくることが多かったです!
妻夫木:ほら! ずるいんですよねぇ。
橋爪:あいつほんと、ずるいんだよ。「ふたり一緒に声を揃えて、『蒼井優はずるい』と言っていた」って書いてくださいね!
前作では交際中だった庄太と憲子(蒼井優)が、今作では夫婦に!
妻夫木:優ちゃんとはもう何回も共演させてもらっていて、夫婦役も初めてじゃないんで、ようやく普通に戻れたみたいな(笑)。フラットな状態で家族として入っていけました。
橋爪:周造は、前作では「憲子さん」だったのに、今作では「憲子」って呼んでいるんです。蒼井優ちゃんが、「憲子って呼び捨てにされて、平田家の一員になったんだなって、うれしかったです」と言っていましたよ。
平田家=どこにでもいる、今を生きる日本の家族
おふたりが考える“理想の家族”とは?
橋爪:理想の家族って…、難しいねぇ。うーん。どうなんだろうね?
妻夫木:わかんないっすねぇ。人間ってないものねだりだから。
橋爪:そうなんだよなぁ。理想とか持たなくていいと思うんだ。失敗だってするし、それでも一緒に暮らしていかなきゃいけない。あまり突き詰めて考えないようにしています。しょうがないんだもんね、家族は選べないから。あ、選べるか、女房は(笑)。
平田家のような家族、いいなぁと思いました!
橋爪・妻夫木:ほんとですか?
妻夫木:しっちゃかめっちゃかですよ!
橋爪:ほんと、しっちゃかめっちゃかですよ! この家族ってデタラメで、寸足らずで、いい加減で、ぐしゃぐしゃ。でもこれを観て、お客さんは笑ってくださる。「私のそばにもいるわ」「うちの亭主がそうだ」って。みなさんの中にスーッと入って行けるのが平田家。山田監督ならではだな、と思います。
笑えるシーンが連続する一方で、独居老人や高齢者ドライバーなど、シリアスな問題も出てきます。
橋爪:いろんな家族の形があって、みなさんそれぞれに傷ついている問題があると思います。そういうものをまぶして入れていることで、平田家が現代の日本に生きている家族だということが納得できるんじゃないでしょうか。僕も毎日、新聞は隅から隅までしつこく読むほうなんで、いろんなことを感じます。まぁ、次の日には忘れていますけどね(笑)。
それでは最後に、宮城の読者へメッセージを!
妻夫木:おおいに笑ってください! 笑うだけで心が優しくなれるというか、あったまるというか、少しだけ幸せになれるじゃないですか。映画は娯楽ですが、そのなかでも喜劇は最高峰の娯楽で、すごくいいもんだと僕は思っています。ぜひ家族で一緒に劇場に行っていただき、観終わった後に、ああでもないこうでもないって、みんなでワイワイガヤガヤ、文句言ったりしてほしいです。
橋爪:実は昔、高校の卒業旅行で親友とふたりで東北一周自転車旅行を目論んだことがあるんです。親父が東北大学に通っていたのですが、僕が12か13歳のときに亡くなっているので、親父と男同士の話をしたことがないんですよ。親父のニオイを嗅ぎたくて、東北へ。大阪から5泊6日で仙台にたどり着いたときにはもう、肩も上がらなくてね、仙台で挫折しました(笑)。東北大のキャンパスや広瀬川のそばを歩いて回ったんですが、親父の足跡はつかめなくて。そりゃそうですよねぇ。そんな甘酸っぱい思い出と肉体的な痛みの思い出がある宮城県に、この映画を持ってまた来ることができたことをうれしく思います。ぜひ、エールをお願いします。
妻夫木:よろしくお願いします!
<取材を終えて>
まるで周造、庄太の父子がそこにいるかのようで、とてもリラックスした雰囲気でした。その場にいないメンバーのことを茶化しながらも愛情たっぷりに話す橋爪さんは、まさに家長のお顔。笑いながら抜群のフォローを入れる妻夫木さんにも、末っ子感があふれていました。
“家族”についての質問には、少し悩みながら真剣に答えてくださったおふたり。“家族”という普遍的なテーマを掲げながらも辛気くささがなく、きれいごとが一切ない。家族の姿を滑稽に、かつ愛らしく描いているのが『家族はつらいよ』の何よりの魅力です。
巨匠・山田洋次監督が久しぶりに喜劇を撮った『家族はつらいよ』シリーズ。2では前作以上にパワーアップ! 笑いのテンポが加速! あきれるくらい笑って、最後にはちょっと泣いて…。家族って大変だなぁ、面倒だなぁと思うけれど、でもやっぱり、家族っていいもんだなぁと思わせてくれます。
『家族はつらいよ2』
©2017「家族はつらいよ2」製作委員会
橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣 中嶋朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優/藤山扇治郎 オクダサトシ 有薗芳記 広岡由里子 近藤公園 北山雅康 徳永ゆうき/小林稔侍 風吹ジュン 中村鷹之資 丸山歩夢 劇団ひとり 笑福亭鶴瓶(特別出演)
原作・監督 山田洋次
脚本 山田洋次 平松恵美子
音楽 久石譲
制作・配給 松竹株式会社
公式サイト kazoku-tsuraiyo.jp
宮城エリアは、MOVIX仙台、MOVIX利府、イオンシネマ石巻、イオンシネマ名取、109シネマズ富谷、TOHOシネマズ仙台、シネマ・リオーネ古川にて公開中。
【ライター 池田直美】【撮影 門山夏子】