6月24日(土)公開の映画『いつまた、君と ~何日君再来~』で初めて“夫婦”になった尾野真千子さんと向井理さん。ふたりが演じたのは、戦時中に南京・上海へ渡り、戦後は日本各地を移り住んだ向井さんの祖父母の若かりし頃。祖母が書いた手記をもとに向井さん自ら映画化を熱望し、7年かけて企画!
惜しくも先日亡くなられた、日本を代表する女優・野際陽子さんの遺作となった本作。野際さんは、現代のシーンで81歳になった向井さんの祖母役で登場し、夫をずっと思い続ける一途な女性を演じました。
向井さんがこの作品に込めた思いとは? 尾野さんが「とても素敵なご夫婦」と絶賛した向井さんの祖父母のストーリーとは? 6月初めのある日、仙台を訪れた尾野さんと向井さんに聞いてみました。
81歳になった芦村朋子(野際陽子)は、不慣れな手つきでパソコンに向かい、亡くなった夫・吾郎との思い出を手記として記録していた。しかし、朋子は突然、病に倒れてしまう。
そんな朋子の代わりに、孫の理(成田偉心)が『何日君再来』と題された祖母の手記をまとめていくことに。
綴られていたのは今まで知ることのなかった、戦中・戦後の困難な時代を生きてきた祖母・朋子と祖父・吾郎の波乱の歴史、そして、深い絆で結ばれた夫婦と家族の愛の物語だった。
「いつか、この人と恋をしたいと思っていたんです」(尾野)
尾野:それがね、プレッシャーはなかったんです。向井さんからは最初に「おばあちゃんはいつもニコニコしていたんだよ」とだけ教えられて、あとは「好きなようにやってください」と言ってもらいました。その言葉を胸に、向井さんとお芝居をしていくなかで自然と出てくるものを出していった感じです。
向井さんのお芝居はすべてに重みがあって、言葉だけじゃなく後ろ姿でさえ、こっちに思いが届くほど。だから私も感情移入しやすかったですし、どのシーンも吾郎さんに対する思いがあふれてきました。
向井さんとの夫婦役はいかがでしたか?
尾野:向井さんとは5年前に一度、ドラマで共演させていただきました。夫婦役ではなく、恋愛をする間柄でもなかったのですが、そのときに向井さんの魅力に惹かれて……。“いつか、この人と恋をしたい。恋愛のお芝居をしたい”とずっと思っていたんです。やっと念願が叶いました!
向井:なんだそれ(笑)。
尾野:恋愛を飛び越えて、いきなり夫婦になっちゃいましたけど(笑)。
今回のお話をいただいたときに、向井さんの企画だと聞いて、ますますうれしくなっちゃって。台本を読む前から「やりたい!」って飛びついていました。
「尾野真千子って、不思議な人です」(向井)
向井:特に、何も。
尾野:おいっ(笑)!
向井:(笑)。
夫婦って自然とそこにいるもので、お互いが夫婦だと意識しながら演じるものでもないかな、と思うんです。尾野さんは常に僕のとなりだったり後ろだったり、ときには前に行ったり、いい距離感でいてくれたので、自分もそこにいることが自然に感じられました。ドラマで共演してから5年の間、一回も会っていなかったのに、久しぶりという感じもしなくて。尾野真千子って、変な人ですよね。不思議な人です(笑)。
尾野さんがおばあさんを演じることについては?
向井:まったく考えていなかったです。
尾野:と言いつつ、本当は考えていたんじゃないの?
向井:本当になかったんだよ(笑)。びっくりしました!
祖母の手記である以上、自分も出たいというのはあったんですが、僕は監督にはなれないし、製作もできないから、キャスティング含めてすべてプロの方におまかせしたんです。そういう人たちがいるから、この作品ができたのだと感謝しています。構成については一緒に打ち合わせをしましたけど、ゼロから映画を作るのは初めてだったので、いい経験になりました。
戦後の日本を支えたのは、普通の暮らしを懸命に生きた人々
おじいさんおばあさんの話を映画化しようと思った理由は?
向井:祖母の手記を読んで、祖父母のような人たちがいたから今の自分たちがいて、戦後の日本を支えていたんだということを知り、残さなきゃいけないと思いました。映画やドラマになるって特殊なことで、成功した人ばかりがスポットを浴びるじゃないですか。でも今だって、日本を支えているのはスーパースターじゃなくて、サラリーマンだったりOLさんだったりすると僕は思うんです。だから、そういう人たちにスポットを当てられたら、と。CGもなければ、特別なことは何もない普通の映画ですが、でも僕が観たいのはそういう映画だった。
脚本は、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』を手がけた山本むつみさん。7年前、向井さん自らおばあさんの手記を山本さんに渡し、「いつか書いてください」とオファーしたと伺いました。
向井:7年前に出させていただいた『ゲゲゲの女房』で、水木しげるさんのご家族がとても素敵だと思ったんです。貧乏だけど家族がいるだけで幸せで、みんなが笑っている。脚本も素晴らしくて、祖母の手記もこういう方に書いてもらいたいと思いました。何もない普通の人のストーリーでも、愛のある物語に昇華できるんじゃないか、って。むつみさんとの出会いは大きかったですね。
向井さんが生まれる前に亡くなられたおじいさん。会ったことのないおじいさんを演じるにあたって、役作りはどのように?
向井:それはそれはもう、壮絶な……何もしていません(笑)。ただ台本を読んでいました。
祖父のことも、当時の祖母のことも知らないから比較しようがないですし、まったく考えなかったです。いただいた台本が素敵だったので、それを映像化したらとてもいいものができるっていう自信のもとでやっていました。とにかく、実話なので作り込んだ感じではなく、カットもあまり多くなくて、本当の家族の雰囲気やにおいが出るような映画になればいいな、と。それができるのは現場でしかないので、雰囲気作りは大切にしましたね。撮影をしながら、ひとつひとつ紡いでいく過程が楽しかったです。
何げないアドリブさえも、まるで本当の夫婦みたい
尾野:こいのぼりの歌を歌うシーンで、私が本番で歌詞を忘れて止まってしまったこと! でもそのとき、向井さんがアドリブで笑って和ませてくれたんです。
向井:完全に歌詞が飛んでいるな〜と思って、僕はただ笑って尾野さんを見ていました(笑)。そうしたら急に思い出してまた歌い始めたので、僕がツッ込んだんです。「忘れるやつがあるか」って。それがそのまま使われていましたね。
そんなハプニングがあったとは思えないほど、自然なシーンでした。まるで本当の夫婦のようなやり取り! では、朋子・吾郎夫婦のシーンで、いちばんお気に入りのシーンは?
尾野:野原で吾郎さんから一輪の花を渡されるシーンが好きです。言葉というか、お花を渡す吾郎さんの手というか、じーんとくるシーンでした。
向井:吾郎さんは怒鳴るような人ではないんですが、らしくないことをしてしまい……。その後での野原のシーンだったので、演じていてこっぱずかしい部分もありました。でも、とても前向きなシーン。そのシーンでクランクアップして、気持ちよく終わることができてよかったなと思っています。
最後に、尾野さんにお聞きします。朋子・吾郎夫婦をどう思いますか?
尾野:すべてが魅力的です! 以前、向井さんがおばあさんに、「おじいちゃんのこと、今どう思ってる?」と聞いたときに、おばあさんは「愛してる」と答えたそうです。そのエピソードも素敵すぎて、感動しました。私もそうなりたい、80歳90歳になっても、愛してるって言いたいと思いました。お手本にしたいご夫婦です。
<インタビューを終えて>
仙台は何度も訪れているというおふたり。向井さんはお仕事で、尾野さんはなんとプライベートで! 大好きな牛タンや七夕まつりをお目当てに、たびたび来られているそうです!! うれしい♡
本作で描かれているのは、今まで映画にもドラマにもならなかった戦後の“普通の”人々の暮らし。尾野さんと向井さん、子供たちによって丁寧に演じられた家族の日常は、素朴だけどとても美しくて、かけがえのないもの。戦中・戦後の日本を懸命に生きた人たちの姿に胸が熱くなり、自分の祖先やルーツにそっと思いを馳せたくなります。そして、今そばにいる人たちをより愛しく思うのです。
親から子へ、子から孫へと受け継がれ、向井さんが仲間たちと大切につないできたメッセージを、ぜひ劇場で受け取って。エンドロールで流れる、高畑充希さんが歌う主題歌「何日君再来」も感動的です!
『いつまた、君と ~何日君再来(ホーリージュンザイライ)~』
岸本加世子 駿河太郎 イッセー尾形 成田偉心 / 野際陽子
原作 芦村朋子『何日君再来』
企画 向井 理
監督 深川栄洋
脚本 山本むつみ
配給 ショウゲート
公式サイト itsukimi.jp
6月24日(土)全国ロードショー! 宮城エリアは、TOHOシネマズ仙台、MOVIX利府、109シネマズ富谷、イオンシネマ名取、イオンシネマ石巻にて上映。
©2017「いつまた、君と ~何日君再来~」製作委員会
【ライター 池田直美】【撮影 門山夏子】