北海道警察の現役警部が覚せい剤取締法違反で逮捕――
いまもっとも乗っている俳優、綾野剛が「日本警察史上最大の不祥事」と呼ばれた「稲葉事件」※をモチーフに、悪事に手を染めた警察官・諸星要一の半生を演じる注目作『日本で一番悪い奴ら』。監督メジャーデビュー作『凶悪』で国内の映画賞を総ナメにした白石和彌監督が第二作として放つ衝撃の問題作です。6月25日に迫った公開に先立ち、仙台を訪れた白石監督に「仙臺いろは」が単独インタビューしました!
稲葉事件…北海道警の稲葉圭昭警部(当時)が2002年7月に覚せい剤取締法違反や銃刀法違反などの容疑で逮捕された事件。2003年4月に懲役9年、罰金160万円の判決がくだった。その後、北海道警による組織的な裏金作りの不祥事が発覚した。
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
この映画はどこにでもある「組織」と「個人」の話
僕は北海道出身で稲葉事件自体は何となく記憶にはあったんですけど、その後の北海道警裏金事件のほうが世間的には大きかったですよね。2011年に稲葉さんが書いた(映画原作の)『恥さらし』を読んだときに、「あーなるほど稲葉事件ってこういうことがあったんだ」っていうのをそこで知って、圧倒的にやってることが面白かったんですよね、まずは。事件のときは単純に「悪い警官がいたもんだな」くらいにしか思わなかったのが、そこにはすごいむき出しの人間がいて、青春があっていろんな女性と恋愛して仲間たちがいてっていうのが何となく見えたんですよ。でこれは面白い映画になるなっていうそれだけですね。
脚色にあたってはどういったことを重視したんですか?
ただ北海道警察と稲葉さんという個人を糾弾するためにこの映画を作ったのではなくて、たまたま原作が警察の話だからそれを描いてますけど、でも他の組織も同じことをやってるし、僕なんかも映画の世界でずっとやってきていて似たようなことが全くないとは言えないですし、そういうことですね。で、『恥さらし』がすごい面白かったと同時にシンパシーを受けたんですね。僕も学生が終わってすぐ映画の世界に入った時に、映画もやっぱり多少昔ほどではないけど無茶苦茶なところがあって、本当は許可が出ないところで監督が撮影したいって言えば許可なしにやっちゃう、強引にやったりとか、徹夜で撮影してそんなの当り前だってことだったりとか、外から見たら狂気じみてることもどんな業界もあると思うんですよ。伝説の先輩がいたりとかして『あの先輩は若いころああだったんだぞ』でみんなそうしなきゃいけないのかなみたいなこととか、だから本当に警察だけの話じゃなくてどこにでもある組織の話みたいなことに見えればいいなあと思ってやってました。
綾野君には1シーン1シーンをすごい熱量で演じて欲しかった
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
綾野剛さんに主演をお願いした理由は?
『恥さらし』を読むと稲葉さんは柔道の猛者で、大学をやめる時にロシアの格闘技の大会に出るか北海道警に入るか悩んだみたいなことが書いてあって、「どんな人がやればいいんだろう」って思ってたんですけど、実際稲葉さん本人に会った時に人たらしですごい愛嬌があって何より色っぽかったんですよね。なんかその人柄に取材のときに触れていろいろ聞いたときに、柔道で強いように見える人を連れてくるよりは色っぽい人でやったほうが、この物語って人たらしの話でもあるからそっちだなってのに気付いた瞬間、あと年齢的な問題もあるんですけど、綾野君が今一番波に乗ってて色っぽいしっていうとこですかね。
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綾野さんにはどんな演技を望んだんですか?
綾野君も一度稲葉さんと会ってお話聞いてとはいえ、別に完コピする必要はないっていう話をして、あくまでフィクションなので綾野君なりの諸星っていう男を演じてほしい。ただ僕も撮影当時40歳、で稲葉さんが捕まったの48歳とかだったのかな。今の僕等の年齢よりも上を描かなければならないという点では、いろんな思考が追い付かないし経験も追いつかないんで、そこを深く追及するよりは1シーン、1シーン目の前のシーンをすごい熱量で演じて欲しいというか諸星として生きて欲しいと。すごい真面目でまっすぐに生きた男だと思っていて、悪いことしたんですけどすごい真面目なんですよ多分。真面目であるがゆえにこういう悲劇になってしまったっていうのがこの映画なので、あとは本当にいろんなことに嘘をつかないっていうのが基本方針ですかね。
目指したのは「笑えて楽しめるギャング映画」
もちろんそうですね。ただ笑えるシーンになるだろうなって思ってるところも本人たちにはすごい真面目に必死にやってもらった方が滑稽さは出るので、今笑えるような芝居してますっていうようなことはやめようっていう話をしてましたけど。でもこの話ってすごい悲劇であるがゆえに、やっぱり真ん中は喜劇でなければならないってずっと思っていたので、だから笑えて楽しめるエンターテインメントにしたいっていうのは本当に思ってました。
特に諸星と仲間たちがとても楽しそうなのが印象的でしたが、実話の雰囲気に寄せたんでしょうか?
そうですね。やっぱり稲葉さん本人も普通5挺とか10挺しか押収できない拳銃を100挺以上あげてたっていうんですよ。100挺以上。でも1挺あげても1万円とか2万円しかもらえなかったって言ってて。で「何が突き動かしていたんですか」って聞いたら「面白かったんだ」と圧倒的に。それは原作を読んだときからわかっていて、面白かった話ですからやっぱり楽しくやらないともったいない。顔しかめて拳銃ありましたとかってやる話じゃないし、凄惨っていうかもっとシリアスに作ろうと思えば作れたのかもしれないですけど、やっぱりこの話はある意味刑事を主役にしたギャング映画だろうなっていう風に思っていて。日本でなかなか今ギャング映画、ギャングがいないですからね。そういう発見ができたんでこういう映画になったんですね。
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
ある意味不謹慎な違法行為が題材ということで、近年の邦画では少ないタイプの映画かと思いますが、あえてお作りになっての手ごたえはどのように感じていますか?
逆に今の若い子とかはあまりこういう映画に触れてないでしょうからそれは楽しみだと思いますし、見た人は「こういう映画あるんですね」って言ってくれるので、それは手ごたえありますけど、昔こういう映画多かったんですよね日本映画って。すべてそういう映画だけとは言わないですけど。で、僕らも映画好きだから今こういう仕事してますけど、記憶に残っている映画って、別に感動して泣いた映画って一本も覚えちゃいないですよ。だいたい「ひどいもん見た」とか「見ちゃいけないもの見た」っていう記憶が僕たちを突き動かしているのであって、そういう映画が今ないのであれば、やれる範囲の中でやりたいなっていうのが出発点ですよね。
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
『凶悪』に続き実際の事件をモチーフにした映画をお作りになりましたが、次回作以降の展望があれば教えてください
日活さんがロマンポルノを二十何年ぶりにリブートするということで、それは一本撮り終わっているんですけど、また機会があればロマンポルノをやりたいと思います。あとは実録の人に今なりつつあるんで、ちょっと一回そこでやりたい企画があることはあるんですけど、普通に原作小説の映画化っていうのもちょっとチャレンジしてみようかなとは思っていて、いくつか企画を進めているのがあります。
やはりクライム系の話ですか?
すべてがそういう感じではないです。クライム系もありますし、でも僕はそれはそれで好きな恋愛映画もありますし、ジャンルにはこだわらずにまずはやれることはやっていく、でまたここにもしかしたら戻ってくるかもしれないしっていう感じですかね。
ありがとうございました!
最後に仙台・宮城の観客の方にメッセージをお願いします!
もちろん社会派な映画ではあるんですけど、笑えて楽しいエンターテインメントでもありますし、綾野君が出てるってこともありますけど、本当に男女問わず楽しめる映画になっていると思います。見始めた時と見終わった時の景色が変わると思うし、そういう映画って今ないですから、ぜひ体験型映画だと思うので映画館で見て楽しんでいただきたいですね!
インタビューしている間、白石監督からは映画の出来栄えに対する自信と意気込みが伝わってきました。シリアスなシーンからコメディタッチの部分までをパワフルに演じる綾野さんの演技は圧巻の一言!キャスト・スタッフの誰一人かけてもこれほどの映画は作れなかったんじゃないかと感じました。監督自身が「見ちゃいけない映画」と語る、現在の邦画界に挑戦状を叩きつけた作品だと思います。ハラハラして笑って、そして余韻を残すラストまであっという間の135分ですよ!
『日本で一番悪い奴ら』
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
田中隆三 みのすけ 中村倫也 勝矢 斎藤 歩
青木崇高 木下隆行(TKO) 音尾琢真 ピエール瀧 ・ 中村獅童ほか
監督 白石和彌
脚本 池上純哉
音楽 安川午朗
原作 稲葉圭昭『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社文庫)
配給 東映・日活
映画公式サイト www.nichiwaru.com
公開日 2016年6月25日(土)
宮城県内の上映 MOVIX仙台・MOVIX利府・109シネマズ富谷
映倫区分 R15+
【仙臺いろは編集部 OT】