10月23日、仙台市内で「仙臺いろはウェルネスセミナー 考えよう、女性ホルモンとからだの未来」が開催されました。座長は「大人女子の取扱説明書」企画でおなじみ、東北大学の八重樫教授。抽選で選ばれた20代〜60代の女性約150名が参加しました。残念ながら抽選に漏れて参加できなかった人や、改めてじっくり聞き直したいという受講者のために、セミナーの録画版を期間限定で配信します。本記事では、セミナーの内容を抜粋して再編集したテキストリポートも掲載。見て、読んで、一緒に“女性ホルモンとからだの未来”について考えませんか。
【第1部】基調講演「今日からはじめる!オトナ女子のセルフケア」
【第2部】パネルディスカッション「女性のからだと心を健やかに」(Q&A)
教えてくれたのは
【第1部】今日からはじめる!オトナ女子のセルフケア
はじめに:女性のからだとホルモン
実は、女性ホルモンは単体ではなく、「エストロゲン」と「プロゲステロン」という2種類の性ステロイドホルモンを指しています。
●エストロゲン(卵胞ホルモン)
・乳腺で乳管の発育を促進。
・古い骨を分解する骨吸収を抑え、新しい骨をつくる骨形成を促し、骨量アップをサポート。
・カラダの脂質において、HDL(善玉)コレステロールを増加させ、動脈硬化の原因となるLDL(悪玉)コレステロールを減少。脂質の循環を良くする方向に働く。
・皮膚のコラーゲンを増加させ、肌の乾燥を防いでハリを保持。
=女性のカラダを若々しく保つホルモン
●プロゲステロン(黄体ホルモン)
・月経周期の排卵後に分泌される。
・基礎体温を上げる。
・受精卵が着床(妊娠)しやすいように、子宮の内膜を安定させる。
=妊娠するために重要なホルモン
エストロゲンは月経が終わった後と黄体期に上がり、プロゲステロンは排卵後の黄体期に上がります。
(月経周期と女性ホルモンのグラフ:横山絵美先生作成)
今回は、エストロゲンに着目しながらお話を進めていきます。
女性の一生とエストロゲンの変化
(女性のライフステージとエストロゲン分泌量の変化グラフ:横山絵美先生作成)
思春期(10歳〜18歳)に卵巣内で徐々に卵胞の発育サイクルが整い始め、血中のエストロゲンが高まると初経を迎えます。その後、性成熟期(18歳〜45歳)に向けてエストロゲン量が増加し、安定。この性成熟期のエストロゲン量が、女性のライフステージの中で最大となります。30代後半から徐々にエストロゲン量は下がり始め、閉経に向けて急降下するのが更年期(40代〜50代)。その後の老年期(50代〜)はエストロゲンが低い状態となります。
女性のライフステージ①:思春期〜性成熟期
女性のライフステージの中で、エストロゲンの分泌が最も盛んになる性成熟期に悩まされる病気が、「月経前症候群(PMS)」です。月経が始まる10日前から3日前にみられる身体的・精神的症状で、ちょうどエストロゲンが下がる時期に起こります。そして、月経が来ると消失するものとされています。
心の症状では、抑うつやイライラ、不安感などがあり、カラダの症状では、乳房の痛みやはり、お腹のはり、手足のむくみなどがあげられます。心の症状が主体で重症な場合は、「月経前不快気分障害(PMDD)」 となります。
PMSとPMDDのセルフチェック
下記のうち、日常生活に支障があるほどの症状を感じているものはありますか?
1つでもあてはまるものがあれば、月経前症候群(PMS)です。
憂うつ
怒りっぽい
イライラ
不安
混乱
人と会いたくない
お腹がふくれる
乳房が痛い
頭痛
関節や筋肉が痛い
むくむ
体重が増える
必須症状を含む5つ以上があてはまるなら、月経前不快気分障害(PMDD)です。
(必須症状)
感情の起伏が激しい
ものすごくイライラする
ものすごく落ち込む
ものすごく不安
(症状)
何もしたくない
集中できない
だるい
過食
眠れない、または寝すぎる
自分をコントロールできない
カラダの症状もある
女性の95%は月経前に何らかの症状を経験
月経前の症状の頻度を調べたところ、 症状の感じ方は人によってさまざまですが、何らかの症状を感じる人が89%、日常生活に支障がある月経前症候群(PMS)と診断される人は5%、月経前不快気分障害(PMDD)と診断される人は1%、症状なしと答えた人は5%でした。なんと女性の95%は、月経前に何らかの症状を経験! 多くの女性が困っている身近な悩みであることがわかります。そんな困った月経前症候群(PMS)ですが、なぜ起こるのでしょうか。
原因はわかっていない
社会的不安、GABAやセロトニンの関係など、いろいろな説がありますが、まだ原因ははっきりとわかっていません。そこで大事なのが、診断。月経前症候群(PMS)は、症状の起こる時期が月経周期と関連があるかどうかで診断します。思い当たる人はまず、産婦人科医師の診察を受けてください。ただし、心の症状が強い場合は、精神科医師の診察も受けると良いでしょう。
大切なのは、心とカラダのメンテナンス
月経前症候群(PMS)になったら…。自分でできるセルフケアを中心に、治療法を紹介します。
①症状記録
スマートフォンのカレンダーアプリや月経管理アプリを活用し、症状日記をつけてみましょう。毎月起こるのか、月経周期のいつ頃から起こるのか、どれくらい日常生活に支障があるのか、どのような症状が出るのか。病気を正しく認識し、理解することが大切です。
②生活改善
仕事や家事などで忙しく、なかなか余裕を持てないのが現状ですが、生活で整えられることは整えていきましょう。バランスの良い食生活や規則正しい睡眠、禁煙、運動(エクササイズ、ヨガ、水泳)などがあげられます。
③薬物療法
生活を改善しても困っている人には、薬を使う選択肢も。低用量ピルや抗うつ薬があり、どちらも有効性は高いですが、血栓症や消化器症状などの副作用に注意する必要があります。また、低用量ピルと抗うつ薬は世界標準の治療ながら、日本では月経前症候群(PMS)に対する保険適用がありません。そのほかには、漢方薬という方法もあります。
むくみ改善がPMSの緩和につながる
食生活と月経前症候群(PMS)の関係についての研究も進んでいます。マグロやバナナに含まれるビタミンB6、魚に含まれるオメガ3脂肪酸、アーモンドなどに含まれるビタミンE、きのこなどに含まれるビタミンD、ごまや海藻に含まれるマグネシウム、乳製品に含まれるカルシウムなどに、効果があるとされています。中でも、カルシウムやマグネシウム、ビタミンEを含む優秀な食品が大豆。大豆に含まれるビタミンEは「γ-トコフェロール」「γ-トコトリエノール」というもので、利尿作用があります。
利尿作用とは、カラダの余分な水分(むくみ)を取り除く力です。月経前にむくみや精神症状を感じている人は約50%。むくみと精神症状には関係があると報告した研究もあり、むくみを取ることが月経前症候群(PMS)の改善につながることがわかります。
PMSの精神症状に期待されるγ-トコ複合食品
月経前症候群(PMS)に対する新たな選択肢としてつくられた機能性食品「γ-トコ複合食品」について、少しご紹介します。複合ということで、複数の成分が含まれています。
ビタミンE
利尿作用により、月経前症候群(PMS)の症状である手足のむくみや、むくみに伴う精神症状をやわらげる効果が期待できる。
エクオール
エストロゲンに似た作用があり、月経がある女性のエストロゲンを調整する働きが期待できる。
カルシウム
月経前の精神症状の改善や不足分の補充が期待できる。
以上3つの成分が含まれています。日本人女性はカルシウム不足であることが知られており、かつ月経前症候群(PMS)の精神症状の緩和にも効果が期待されるため、このような複合食品で補うのも有効と考えられます。
「月経痛に魚が良い」という研究結果も
月経に関わる困ったことでもう1つ、月経痛(生理痛)があります。東北大学、近畿大学、東北医科薬科大学の共同研究で、産後の女性2,060人を対象に、魚の摂取頻度と月経痛の程度を調査しました。すると、魚の摂取頻度が週1回以上の女性は、週1回未満の女性と比べて、月経痛のリスクが低い傾向にあるとわかりました。長期的な効果はまだ調査中ですが、月経痛に困る皆さんのお役に立てるよう、研究を続けていく予定です。
女性のライフステージ②:更年期
更年期とは、おおよそエストロゲンの分泌が急激に低下してくる時期を言います。 更年期を説明する前に、まずは閉経の定義から。閉経とは、最後の月経から1年間月経がない状態。1年前の最終月経をもって閉経したと考えます。日本人女性の閉経年齢の中央値は50.5歳。閉経の前5年間、後ろ5年間の約10年間の時期を更年期と言います。
更年期に起こる症状
更年期から老年期にかけて、エストロゲンの低下によって引き起こされる症状は、時間経過とともに変わっていきます。40代前半にまず、月経不順や不正出血が起こります。次に起こるのが、ホルモンバランスの乱れによって起こる自律神経失調症状で、のぼせやほてりなどの症状が。その次に、疲れやすい、眠れないなどの精神症状が出てきます。これらが更年期の主な症状となります。
更年期から老年期にかけては、エストロゲン低下に伴って、粘膜が薄くなることから起こる腟炎やかゆみなどが出てきます。脂質の異常として高脂血症、動脈硬化が起きやすくなり、骨量低下の最終形として骨粗しょう症が起こります。
ちなみに、日本人女性に最も多い更年期の症状は、肩こり。続いて、疲労感、のぼせ、発汗も多くの人が感じていらっしゃいます。
更年期の症状セルフチェック
以下は更年期に起こる症状です。それぞれの程度を「なし」「弱」「中」「強」の4段階でチェックし、合計点数を出してみましょう。
0〜25点:更年期を上手に過ごせています。このままの生活を続けていきましょう。
26〜50点:食事や運動などの生活習慣に気をつけて、無理のない生活を送りましょう。
51〜65点:産婦人科または更年期・閉経外来を受診し、医師の診察を受けたほうが良いでしょう。
66〜80点:半年以上の長期間にわたる計画的な治療が必要です。
81〜100点:各科の精密検査を受け、その結果に基づいた長期的な対応が必要です。
出典:小山 嵩夫,1992
更年期の症状と間違えやすい病気
注意しないといけないのが、間違えやすい病気もたくさんあることです。頭痛は、脳腫瘍や眼・鼻・耳の病気からくることもありますし、肩こりやめまいは、脳梗塞やメニエール病からくることがあります。そのほかにもさまざまな病気が隠れている可能性がありますので、それぞれ専門の先生に相談していただくことが必要です。
なぜ、更年期にさまざまな症状が?
更年期の症状は、ライフステージ特有の背景が影響しています。まず、エストロゲン量が低下するとホルモンバランスも乱れ、自律神経失調症状が出やすくなるというのが第一。それ以外にも、カラダの変化や体力低下、意欲低下の自覚があります。仕事をしている人は、年齢とともに責任ある仕事が増える時期。身近な人が亡くなることが多くなり、人間関係の喪失感を感じやすい時期でもあります。家族も変化の時期。両親の介護や子どもの自立時期と重なり、悩みを抱えがちに。このように、更年期は変化の時期なのです。
更年期障害の治療法
①ホルモン補充療法
体内に減少したエストロゲンを補い、更年期の症状を改善する代表的な治療法。更年期の症状は、エストロゲン量が低下することで起きる症状ですから、まずは補充するというシンプルな考え方です。
子宮のある女性には、エストロゲンと黄体ホルモン製剤をあわせて投与します。黄体ホルモン製剤は、子宮内膜の増殖(発がん)を抑える目的で使用します。よって、何らかの理由で子宮を摘出した女性は、エストロゲンのみを投与するエストロゲン単独療法となります。エストロゲン製剤には、飲み薬や腟から投与する腟錠、塗り薬ほか、シールやパッチのような貼り薬があります。
有効性が高い一方、血栓症や乳がんのリスクについて考える必要も。とは言え、医師の管理のもとで正しく使用すれば、心配はありません。逆に、ホルモン補充療法をすることで、大腸がんと食道がんのリスクが下がるメリットもあります。
②向精神薬
心理的症状が強い人には有効性が高いですが、 消化器症状などの副作用や飲み合わせには注意が必要です。
③漢方薬
副作用が少なく、種類が多いメリットがある一方、切れ味が悪く、飲みにくいというデメリットがあります。
④カウンセリング
安全ですが、通常診療の中では十分な時間が取れないことがあります。
それぞれの治療法について、医師と相談し、納得したうえで選択をしてください。
更年期のセルフケア
薬などによる治療も大切ですが、環境整備や生活改善も重要。月経前症候群(PMS)と同様に、心とカラダのメンテナンスを心がけましょう。
◎自分の環境は自分で整える
ご家族や友人など、まわりの人に無理のない範囲で自分の状況を伝え、理解してもらいましょう。同じ悩みを持つ友人と、カラダや心のつらさを共有しましょう。自分だけじゃないと思うだけで、気持ちが楽になるかもしれません。信頼できるかかりつけ医を見つけて、相談しましょう。全部自分でなんとかしないと!と抱え込むのではなく、医療を頼ってください。
◎運動を取り入れた生活改善
月経前症候群(PMS)のときにも話したように、やはり運動は有効です。しかし、更年期女性で運動習慣があるのは2割程度という報告がありますので、積極的に運動を行いましょう。ウォーキングやヨガ、水泳など、有酸素運動が効果的です。
◎ビタミンやマグネシウムを積極的にとる
運動以外の生活改善としては、やはり食生活が大事になってきます。更年期になると、基礎代謝量が低下し、エストロゲンの低下に伴って、脂質代謝の変化、骨代謝の変化が起きます。更年期に摂取したい栄養素は、ビタミンBやマグネシウム、ビタミンE、ビタミンDなど。ビタミンBやマグネシウムは、ストレスや不安を軽くする働きがあり、ビタミンEは脂質代謝の改善、ビタミンDは骨代謝の改善に効果があると言われています。
更年期に大豆イソフラボン
大豆イソフラボンとは、大豆に含まれる植物性エストロゲン。摂取すると腸内細菌によって代謝され、エクオールになります。このエクオールは、エストロゲン受容体にくっついて、エストロゲンに似た作用を示すことがわかっています。エストロゲンがたくさんある閉経前は抑え、エストロゲンが少ない閉経後には補うというように、エストロゲンの調節をしてくれます。
更年期の症状に対して、エクオールの効果を調べる研究も行われています。首や肩こりの改善、ホットフラッシュの頻度減少、骨密度の低下を抑える、LDL(悪玉)コレステロール値の改善、目尻のシワ改善など、さまざまな効果が期待されます。では、大豆イソフラボンはどれくらい摂取すれば良いのでしょうか。
大豆をたくさん食べれば良いわけではない
大豆イソフラボンの安全な摂取目安量の上限は、1日70〜75mgです。そのうちの50mgぐらいを食事でとるには、大豆50gに相当します。大豆50gは豆乳200g(コップ1杯)、納豆小粒1パック程度、 豆腐は200g(2/3丁)程度となります。
和食中心の生活を心がけていれば、毎日摂取できるように思いますが、エクオールを産生できる量にも幅があります。残念ながら、日本人の2人に1人はエクオール産生菌を持っていないため、大豆を食べてもイソフラボンのエストロゲン様作用を得られないということもわかっています。
大豆はエストロゲン様作用のみならず、良質な植物性タンパク質として、日頃から摂取を心がけたい食品です。特定保健用食品やサプリメントもありますので、エクオールを産生できる人もできない人も、活用をご検討いただくと良いかと思います。
女性のライフステージ③:老年期
女性の骨はエストロゲンによって守られており、骨密度は閉経前から徐々に低下。閉経後には急速に減少します。実は、老年期に多い動脈硬化や骨粗しょう症といった生活習慣病は、更年期から隠れて進行しているのです。老年期に程度がひどくなり、症状が現れてくるという形です。
65歳以上の要介護の原因を調べたデータでは、男性の原因1位が脳血管疾患なのに比べて、女性は関節疾患や骨折、転倒など、骨粗しょう症を背景にした病態がダントツで多い結果に。女性にとって骨粗しょう症がどれほどQOL(生活の質)を低下させるか、ご理解いただけると思います。
更年期のセルフケアで老年期が変わる
繰り返しになりますが、やはり運動が大事です。特に骨粗しょう症に対しては、ランニングやエアロビクスなど、骨を刺激する運動が良いとされています。食生活については先ほどお話しした通り、更年期になると、脂質代謝の変化、骨代謝の変化が起きます。この変化に対して偏った食事をとっていると、栄養が過剰な部分と欠乏する部分が出てきます。そういう状態が続くと、老年期に骨粗しょう症や動脈硬化のような生活習慣病を発症するリスクが高まります。骨粗しょう症や動脈硬化を予防する栄養素として、オメガ3脂肪酸やビタミンD、カルシウム、ビタミンKがあります。これらをバランス良くとれるのが和食。和食はとても理想的な食事です。
まとめ:女性のライフステージ別セルフケア
月経前症候群(PMS)とうまく付き合おう
症状日記をつけ、運動を心がけましょう。多くの栄養素の中では、ビタミンE摂取がむくみ防止に役立ちます。
↓
更年期(40代〜50代)
更年期の症状とうまく付き合おう
環境整備もしていきましょう。エクオールの摂取が、更年期の症状緩和に役立ちます。
↓
老年期(50代〜)
骨粗しょう症に備えよう
今から始める運動と食事は、骨折予防に役立ちます。食事は和食を中心に、バランス良く。
カラダの未来のために
人生100年時代と言われる今、閉経の約50歳は人生のちょうど半分、折り返し地点。半分も来ると、カラダにさまざまな変化が起きます。いつまでも生き生きと過ごすために、後半の人生もうまくセルケアをしながら、カラダを大事に使っていきましょう。何かお困りのことがありましたら、産婦人科医にご相談ください。(以上、すべて横山先生)
【第2部】女性のからだと心を健やかに
Q1. 気分の浮き沈みがあり、白髪が増えました。特に月経前は、イライラして気分が沈み、すごく悲しくなります。月経も短くなり、自分の老化を受け入れられません。(40代女性)
菊地先生:変化を受け入れるのは、なかなか難しいこと。今までできていたことができなくなり、失うものに目が向きやすくなるものです。けれども、年齢とともに自分の好みがわかってきたり、さまざまな経験を通して得てきたものがあったり、逆にこだわりをちょっと手放せたり、といった良い面もあるはず。どうしても失うものに意識が向いてしまったら、喪失感や寂しさなどの感情を、何かの形にして表現してみる。同じような状況にある人と話をして共有する。そんなことが大事かなと思います。
八重樫先生:変化をどう捉えるか、ですね。年齢を重ねることはネガティブなだけではなく、ポジティブな面もある。それらを共有できる相手が近くにいる環境をつくっていくことも、大事だと思います。
Q2. PMSや月経痛など、ホルモンバランスの影響で起きることに対して、セルフケアでできることと、それ以外の対応策(ピル等)を教えていただきたいです。(20代女性)
横山先生:月経前症候群(PMS)に対するセルフケアとしては、規則正しい睡眠、禁煙、運動、食生活の見直しがあります。喫煙が月経前症候群(PMS)のリスクを上げると言われていますし、月経前の心とカラダの症状にヨガや水泳が効果的とも言われています。食生活は、大豆に含まれるビタミンEをはじめ、カルシウムや魚類をバランス良くとっていただくことが良いと思われます。忙しくて食生活に偏りが出てしまうという人は、サプリメントなどを活用していただいても良いのではないでしょうか。また、月経前症候群(PMS)に対する薬物療法は、低用量ピル、抗うつ薬、漢方薬があります。
月経痛は子宮の内膜が剥がれることで起きる小さな炎症が原因なので、炎症を抑える痛み止めが第一選択。低用量ピルや漢方薬の効果が期待されます。月経痛のセルフケアとしてはお腹を温めることが大切で、やはり禁煙と運動もおすすめです。出産経験のある人は、子宮の中で持続的に薬を出してくれる器具を入れる方法もあります。月経痛の原因として、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が隠れていることがあります。月経痛で困っている人は産婦人科を受診し、定期的に子宮がん検診を受けるようにしてください。
八重樫先生:ここ10年20年の間で月経前症候群(PMS)や月経痛の研究が進んでおり、いろいろなセルフケアや治療法があります。医師に相談して、自分に合った方法を見つけていただきたいと思います。
Q3.月経後に必ず頭痛があります。鎮痛剤を飲んでも治まらず、吐き気を伴うことも。更年期症状の一つでしょうか? 改善方法はありますか?(40代女性)
菊地先生:頭痛は、大きく分けて片頭痛と緊張型頭痛があります。片頭痛は20代から40代の女性に多く、ズキズキしたり、発作的に痛みが出てきたりする症状です。女性の片頭痛はエストロゲンの影響を受けるとも言われています。 詳しいメカニズムは明らかではありませんが、エストロゲンのゆらぎが激しい時期に悪化すると言われていますので、もともと片頭痛がある人は、月経時や更年期に症状が悪化することがあるかもしれません。しかし、更年期に起こる症状がすべて更年期障害とは言いがたく、更年期だけによるものなのか、もしくは別の病気なのかを診断する必要があります。
鎮痛薬は薬局で簡単に手に入るため、飲まれている人が多いかなと思うのですが、中には鎮痛剤を飲みすぎて頭痛が続いてしまうケースもあるため、注意が必要です。また、片頭痛には通常の鎮痛薬とは違う薬を使うことになっています。症状が続く場合には、頭痛の専門である脳神経外科を受診してください。片頭痛であれば、お酒やカフェインを控えるなどのセルフケアも大事になってきます。
八重樫先生:頭痛にはさまざまな種類があり、原因も対処法も変わってきます。40代だから更年期と決めつけず、専門医やかかりつけ医の診察を受けましょう。
Q4. サプリメントでエクオールをとるようにしています。いつまで服用(摂取)を続ければ良いのでしょうか? 閉経後も続けたほうが良いのでしょうか?(40代女性)
横山先生:すでにエクオールを飲まれているということで、健康に気遣われている方なんだなと思います。エクオールは、健康に生きることをサポートする機能性食品ですので、いつまで飲まないといけないと決められてはいません。少しでも効果を感じられるのであれば、続けて服用(摂取)していただくのが良いと思います。効果というのは、イライラを抑えたり、ほてりがやわらいだり、日常生活に活気が出る、など。40代、50代の人はもちろん、それ以上の年代の人でも、健康の基礎づくりに役立ててもらうのが良いのではないかと思います。
八重樫先生:閉経後も問題なく続けていただけます。
Q5. 52歳で閉経して以来、睡眠障害があります。改善方法を教えてください。(60代女性)
菊地先生:この方は長い間、睡眠に悩まれているのだなと思います。まず、不眠について説明します。寝つきにくい、途中で起きてしまう、早朝に目が覚める、朝起きたときに寝た感じがしない、ぐっすり眠れていない感じがする、というのが不眠の症状です。不眠によって日中に支障があると、睡眠障害という診断になり、治療を考える必要があります。最近は、前ほど依存性や副反応のない睡眠薬もありますが、「眠れないから薬」ではなく、私たち医師はまず、睡眠習慣を整えるための睡眠衛生指導を行います。
例えば、寝る直前までスマホを見ない。寝酒は寝つきを良くするけれど、睡眠を妨げるので控える。毎朝起きる時間は一定にしつつも、睡眠時間にはこだわらない。眠くなったら布団に入る。ある程度カラダが疲れていないと眠りづらいため、日中に疲れ貯金をしておく、など。
子どもの頃と比べると、40代以降は深い睡眠の時間が短くなり、睡眠時間も短くなっていきます。年齢とともに変わる睡眠の質に合わせて、睡眠習慣を変える取り組みをしてみてはいかがでしょうか。
八重樫先生:睡眠衛生については、厚生労働省のホームページに掲載されています。ご覧になってみてください。
Q6. ホルモンバランスに左右されつつも、日々を穏やかに過ごすために、講師の先生方が工夫していることは何ですか?(30代女性)
横山先生:第1部でセルフケアのお話をさせていただきながら、私自身もなかなか十分にできていないと感じています。そんな中でも、できる限り睡眠をきちんととるように心がけていたり、漢方薬を使ったりしています。月経周期で自分がイライラしてしまう時期や落ち込んでしまう時期が、ある程度わかってくると、「今はホルモンのせいでイライラしているんだな」と思えるように。自分を客観的に見ながら、気持ちをコントロールするように心がけています。
菊地先生:私は年代的にゆらぎの時期です。「生理前はちょっとしんどいので、ゆっくりする時間をとっておこうかな」というふうに、月経周期に合わせて予定を入れるようにしています。以前は「ちゃんとやらなきゃ」と、完璧にやりたい気持ちが強かったのですが、だんだん年齢を重ねていく中で、その日の調子に合わせて見切りをつけながら、できる範囲で仕事や物事を行えるように。セルフケアでは、食事や運動が本当に大事だなということも実感しています。
八重樫先生:ふたりとも第一線で働く医師でありながら、同時に家庭を持たれている方々です。非常に忙しい毎日を過ごしておられる中、共通しているのは、自己分析をきっちりされながら過ごしていることなのだとわかりました。セルフケアの参考になりそうですね。
Q7. 20代の娘についてです。男性ホルモンが普通の女性より2倍多く、排卵をしていないと言われ、治療中です。女性ホルモンを上手に増やす方法や男性ホルモンが増える原因を知りたいです。(50代女性)
横山先生:恐らく娘さんは、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断を受けているかもしれないです。若い女性の排卵障害で、卵胞が発育するのに時間がかかり、なかなか排卵しないという病気です。脳から出ている黄体ホルモンと血糖値を下げるインスリンが、通常よりも強く卵巣に作用してしまうことで男性ホルモンが増えてしまう。それによって、ニキビや化膿などの症状が出てきます。女性ホルモンの中でもエストロゲンはきちんと出ているのですが、排卵をしないため、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)が出ないことが問題となります。
遺伝や環境など、いろいろな原因が重なって起こると言われていますが、原因ははっきりとわかっていません。治療法は、妊娠をしたいかによって変わってきます。すぐに妊娠を望む場合は、まず排卵誘発剤を使って排卵のチャンスを増やすことが第一選択。すぐに妊娠を望んでいなければ、低用量ピルや薬を使うことがあります。多嚢胞性卵巣症候群の人は、糖尿病やメタボリックシンドロームのリスクが高くなることが知られていますので、健康面で気をつける必要もあります。
八重樫先生:多嚢胞性卵巣症候群、ちょっと難しい言葉が出てきましたが、これは比較的若い女性に起こる病気です。ところで、男性ホルモンと女性ホルモンは全く別もの、と思っている人が多いのではないでしょうか。実は、原材料は同じコレステロールです。コレステロールから酵素の働きによって、まず男性ホルモンができます。そこからまた別の酵素の働きによって、男性ホルモンから女性ホルモンに変わるのです。つまり、男性ホルモンと女性ホルモンの違いって、ほんのちょっとなんですよね。その微妙な違いの中で、何らかの原因で不調が起こってしまったのかなと思います。主治医の先生に相談し、治療を続けてください。
Q8. 仕事も趣味もアクティブにこなしていた自分が、更年期に入ってまるで違う人間のように、何もしたくなくなっています。ホルモン剤は服用しています。(50代女性)
菊地先生:いつもできていたことができなくなるのは、すごく大きな喪失感ですし、この先どうなるんだろうという不安が強くなる時期でもあるかと思います。今までやっていた趣味に気が向かなくても、ほかのことにシフトして物事を楽しめているようであれば問題ありません。ただ、何もしたくなくなるという場合、一応、精神科的にはうつ病の可能性はどうかなと考えます。
うつ病の症状には、夜眠りにくい、食欲が落ちている、気持ちが落ち込む、趣味や好きなことへの関心がなくなる、意欲低下などがあるほか、自分を責めてしまうという思いも。その思いが強くなると、中には消えてしまいたいと感じる人もいらっしゃいます。数日で元気になるようであれば、心配はいらないですが、それらの症状が2週間ぐらいずっとある場合は、ちょっと心配です。生活にも支障が出てきますので、心療内科や精神科を受診していただいたほうが楽になれるかなと思います。
八重樫先生:ずっとこういう状況なのか、たまに起こるものなのか。そのあたりを基準にしてみて、2週間くらい何もしたくない症状が続く場合には、一人で抱え込まずに専門医を頼ってください。
Q9. エクオールを飲み始めました。関節痛は治るのか知りたいです。主人に対してのイライラが増えています。説明しても「怠けている」と捉えられるので、さらに悲しくなってしまいます。良い伝え方があれば知りたいです。(40代女性)
横山先生:関節痛については、エクオールを3カ月摂取すると、関節痛が改善するという報告がありますので、もう少し続けていただいても良いのではないでしょうか。ただし、痛みがなくならない場合は、ほかの病気が原因かもしれませんので、手外科や整形外科に相談してください。
菊地先生:怒りは自分が困っていることのサインでもあります。皆さんいかがでしょう。最近イライラしたことを思い浮かべてみてください。そのときは誰かに向けたイライラだとしても、自分は何に困っていたんだろう?って視点を変えてみると、自分がイライラしやすい場面や苦手なことが見えてくるかもしれません。
私は普段、大学病院の精神科で働いています。この場には男性もいらっしゃるので言いにくいのですが、旦那さんにイライラするという女性の患者さんは少なくありません。女性はどちらかというと察してほしい気持ちが強かったり、でも男性は察するのが苦手で、具体的に言ってもらうほうが楽だったり。そういう相手への期待と現実のギャップが、夫婦をはじめ、対人関係では多いんですよね。ギャップが大きければ大きいほどしんどいので、優先順位をつけて、相手に期待する最低限のことを整理してみると良いかもしれません。イライラが起きたときは、相手とうまくコミュニケーションを取るのが難しいもの。大事なことを話すときは、お互いがリラックスして相手を思いやれるような時間帯・曜日を選んで話すと良いかと思います。
Q10. 閉経後から、ばね指や手指第一関節の変形がみられます。閉経が原因なのでしょうか?(50代女性)
八重樫先生:女性ホルモンの影響や加齢など、手指の症状にはさまざまな原因があります。詳しくは、仙臺いろはのWEBコラムで東北大学病院 整形外科の森 優先生が解説していますので、そちらをご覧になってみてください。
年齢のせいと放置してはいけない、手指の不調
更年期の関節痛などの予防に。手指のセルフケア
Q11. 閉経後は腟の炎症や子宮脱などの症状が出ると言われますが、その予防方法を教えてください。ホルモン補充療法は、症状がある人しか受けられないのでしょうか?(50代女性)
横山先生:閉経後の腟の炎症は萎縮性腟炎と呼ばれ、エストロゲンの低下で腟の潤いがなくなってしまうために起こります。ホルモン補充療法で改善が期待できます。ほかに、腟に直接エストロゲンの座薬を入れる方法もあります。
子宮脱は、出産や加齢によって子宮を支える靭帯の筋肉が弱くなり、起こるもの。その筋肉を鍛えることが予防になります。具体的には骨盤底筋トレーニングと言い、動画サイトでもいろいろ紹介されていますので、実践してみてください。症状がないときから鍛えておくのをおすすめします。トレーニング以外では、便秘でいきんでしまうのを避けたり、肥満気味の人は体重を減らしたりすると良いです。
最後に、ホルモン補充療法について。困った症状がなければ、あえて治療する必要はありません。ただし、40歳未満で閉経を迎えた早発閉経の人や、若いうちにエストロゲンの分泌がなくなってしまった人は、骨密度を保つために、症状はなくてもホルモン補充療法を必要とする場合があります。医師と相談してください。
八重樫先生:子宮が下がってくる子宮下垂と、子宮が外に出てしまう子宮脱。これらは比較的多い病気です。程度によっては手術が必要になります。気になる人は、産婦人科を受診してください。骨盤底筋の体操もぜひ実践していただければと思います。
Q12. 月経困難症で低用量ピルを飲んでいますが、イライラや不安感が消えない場合は、どうしたら良いですか?(20代女性)
菊地先生:今回お寄せいただいた質問の中に、イライラにまつわる内容が多かったように思います。年代によって状況はさまざまですが、イライラの背景を知るっていうのがすごく大事です。本当に月経前だけであれば、やはり女性ホルモンの影響は大きいということですが、ほかの時期でも感情の波があるとか、不安感がある場合には、ストレスになるきっかけがあるのかもしれません。それによって、どんな対処やセルフケアをすれば良いのかを検討するために、心療内科や精神科を受診することも一つの選択肢。まずは、イライラや不安感がある時期を振り返ってみてください。
八重樫先生:セルフチェックが非常に大事だと思います。
最後に、先生方からメッセージをお願いします。
菊地先生:私も改めて、それぞれの時期の大変さや個人差がよくわかりました。自分も大変だけれど、ほとんどの女性がいろいろな症状で困っていて、みんなもがきながら、いろいろやってみたり、ダメだったりを繰り返しているんですよね。そんな中で、第1部の横山先生の講演のように、正しい知識を得る機会を持つことも大事。そうやって、ゆらぎの時期を自分なりに過ごしていくのが大事なんじゃないかなと思います。今日はどうもありがとうございました。
八重樫先生:こういうセミナーを開くようになったのは、最近のこと。私は医師になって40年ぐらい経ちますが、市民公開講座といえば、以前はがんや脳卒中をテーマにしたものが多かったです。しかし、そういったものは医療の進歩とともに克服されつつあるように思い、逆に皆さんの関心が、今回のようによりパーソナルなテーマへ向いてきているのを感じています。来年もまた、お会いしましょう。
※このページの情報は2022年11月28日現在のものです。
【仙臺いろは編集部】