2016.06.12

究極のミステリーを豪華キャストで映画化! 『64』佐藤浩市&瀬々敬久監督インタビュー

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 わずか7日間でその幕を閉じた、昭和64年。
 その間に起きた少女誘拐殺人事件、通称「ロクヨン」。
 未解決のまま時は過ぎ、時効まで1年と迫ったある日、「ロクヨン」を模した誘拐事件が発生する――。

2012年「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、2013年「このミステリーがすごい!」第1位などに輝き、究極のミステリーとして話題を呼んだ横山秀夫の『64(ロクヨン)』。
極上のミステリーであると同時に、登場人物すべての心情が複雑に絡み合う重厚な人間ドラマである『64』が、日本映画界を代表する超豪華オールスターキャストにより、前後編2部作の感動巨編として映画化!
前編が絶賛公開中の今、いよいよ6月11日に迫った後編公開に先立ち、瀬々敬久監督と主演の佐藤浩市さんが来仙しました!

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(C)2016映画「64」製作委員会

熱量を持たないと乗り越えていけない役

横山秀夫さんの原作を映像化する上で、演者として監督として、どのような試みがあったんでしょうか。

佐藤「僕が演じた三上という警務部の広報官の役柄は非常に素材がたくさんあって、家庭の問題、妻とのこと、組織人として、上司と自分、広報室のこと、記者クラブとの関係、元刑事として、望むでもなく広報官になっている自分…。こんなに多くの材料があるなかで、じゃあ何をつくろうかと。どの材料もおろそかにせずに、自分のなかでバランスを見つけながら三上をどう演じていくかということが僕にとっての命題でした」

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瀬々「おっしゃるとおりで、こちらとしてもそこが一番の悩みだった。後編の終わり方にしても原作では三上の妄想のように終わっているところがあって、どう映像化するかを思案しました。原作とは異なるエンディングとよく書かれていますが(笑)、その心理描写の問題がラストを変えた理由のひとつでもあった。映画の後編が皆さんにどういうふうに受け止められるかは、心配でもあり楽しみでもありますね」

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    佐藤さんは今回の三上役を熱望したと伺っていますが、三上というキャラクターの魅力は?

    佐藤「あの、熱望した覚えはなかったんですけど…(笑)。話というのは面白いものでね、いろんなふうに転がっていくもんだなと(笑)。でも原作は前々から拝見させていただいていて、演者としては大変だなと思っていました。そんなうちにあちらの帽子の方から(プロデューサーを見る)やってみないですかとお誘いが来て。大変なんですよね、横山さんの物語の主人公は。ある熱量を持たないと乗り越えていけない部分があって、今回は特に対立的な構図が多いので」

あんなに叫ぶ佐藤さんを久しぶりにスクリーンで拝見しました。すごく緊迫した中でいろんな人が怒鳴りあっている。そんな撮影現場の雰囲気は、実際どうだったんでしょう。

佐藤「瑛太(※広報室と対立する県警記者クラブを取りまとめている新聞記者・秋川役)は瑛太でああいうふうに仕掛けてくる。仕掛けて来いといったのは僕ですが。熱量が大きくて、もしかして見る方の好みは分かれるかもしれないけど、演じる僕らは自然とそうなっていってしまう。そういう意味では平成の映画っぽくないですよね。実際は記者クラブとのシーンはもっとエモーショナルだったんですよ。でもそれだと、広報官である三上が記者たちにただ泣き落としで懇願しているだけになっちゃう。そこで監督がブレーキをかけてくれて、気持ちは泣いていても踏ん張って記者たちに伝えようとする三上、というギリギリのラインをやってみた。そしたら仲村トオルに、もっとやると思ってたと言われたんだよね」

瀬々「あぁ、言ってた言ってた」

佐藤「でも、そういうことなんだよと」

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寄せ鍋のようにできた映画

瀬々「瑛太さんについては、僕は仕事をするのが初めてだったんですがとてもおもしろい人だなと思いました。若い俳優だと、ここどうですか?なんていろいろと言ってくる人もいるんだけど、彼はそうじゃなくてテストのたびに毎回違うことをやるんですよ。動きを変えたり座ったり立ったり、いろんなパターンやりながら自分自身でも探ってつかみとろうとしていて、そのやり方がおもしろいなと。監督こんなことやってみました!と言ってくるんではなく、ひっそりとやってるんですよ(笑)。それがおもしろくて素敵な感じでした。いろんな役者さんが出ていますが、芝居の作り方とか芝居への立ち向かい方は当然みなさん違うんですね。違うのが逆におもしろい。その中心に佐藤さんがいて、いろいろと違っている人たちがガーーッと集まってパワーになって、寄せ鍋のようにできた映画が『64』なのかと思います」

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俳優陣が本当に豪華ですが、共演されていかがでしたか。

佐藤「僕はまだ誰も決まっていない時からの参加だったので、最後までなかなか決まらない難しい役もあったりするなか、みなさんが受けて下さって、そのたびに一喜一憂したというのが正直なところ。みなさんが映画のために集まってくださって、日々役が決まっていくなかで支えられながらも、きっちり期待に応えなきゃいけない。いい意味で責務を感じながら演じられました」

初めて共演した方もいらっしゃるのでは?

佐藤「永瀬(正敏。誘拐事件被害者の父・雨宮役)くんとは、ドイツまで一緒に行って撮入数日というとこでポシャった企画以来ですね。坂口(健太郎)くんや窪田(正孝)くんという若い方はまぁ当たり前ですが、(緒方)直人くんや吉岡(秀隆)くんも初めて。みなさん当然面識はあるんですけどね、そんな広い世界じゃないんで。それでも実際初めてという方々と一緒にやれて、うれしかったですね。僕は必ず会うべくして会っていると思うんですよ。あの時はああだったけど、今この時に会うようになっていたんだねというふうに。ご縁ってそういうものだと僕は思っていて、『64』はそういう作品だったんだなと思っています」

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ネタバレにならない程度でお願いしたいのですが、印象的なシーンを教えてください。

瀬々「後編で浩市さんと永瀬さんが横並びでベンチに座るシーンですね。娘を失って、喪失感を抱える父親同士がたたずんでいる。さりげない、なにげないシーンですが、それがよかったですね。あとこれも後編ですが、三國連太郎とオ…」

佐藤「それネタバレになるから(笑)。僕も雨宮とのベンチ座りですね。永瀬くんの熱量は白い炎。熱く見えないけれど、実はそうじゃない部分を抱えている。大きな動きの流れがあるなかで、お互いを探るわけでも達観しているわけでもなく、ただあのベンチシートにふたりでいるというのがアクセントになっていて、演じている僕自身の針が触れました。思ったより個人的に感情移入が強くなったという話を監督にした覚えがありますね」

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    主題歌が小田和正さんの『風は止んだ』ですが、こちらについては。

    「陰鬱な世界観が展開していくので、小田さんの突き抜けるような声、抜け感のある声に、ある種の希望というものを感じてオファーしました。歌詞の最初の部分の、生きてきた理由はわからないけど、というところがすごく好きで、この映画のテーマを考えて書いて頂いたと感じています。曇天のなかで小さな希望の光がふわっと差し込んできたような、そんなイメージが小田さんの曲のおかげでできたんではないかと」

    佐藤「僕はテレビドラマの場合は主題歌との相関性が大事なものだったりするのかなと思うんですけど、映画を作っている人間はあんまり歌って関係なくて(笑)。(歌っている人の)顔が見えちゃうと、映画とどうリンクするのかなって懐疑的な部分があったりするんですよ。でも後編が終わって、小田さんの主題歌が流れて、ある意味本当に戦いが終わったような感じがしました。映画と曲と、非常にマッチングがよかったんじゃないかと思います」

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インタビュー中、佐藤浩市さんが何度も口にしていた「熱量」という言葉が印象的でした。少女誘拐事件の謎解きを軸に、県警広報室とマスコミの対立、警察内部の軋轢、こじれた親子の関係…など多様に乱立する対立関係が見どころ。それぞれの立ち位置で、それぞれの信念やエゴを抱えてぶつかりあう登場人物たちに圧倒されます。その舞台裏を少しだけお聞きして、やはり熱い現場だったんだと感動! 冷静さとあきらめと、そして捨てきれない熱さを持った、佐藤さん演じた三上という男は本当にかっこいいですよ!

『64(ロクヨン)』

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出演 佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、緒形直人、窪田正孝、坂口健太郎、椎名桔平、滝藤賢一、奥田瑛二、仲村トオル、吉岡秀隆、瑛太、永瀬正敏、三浦友和ほか
原作 横山秀夫 『64(ロクヨン)』(文春文庫刊)
主題歌 小田和正「風は止んだ」(アリオラジャパン)
監督 瀬々敬久
映画公式サイト http://64-movie.jp

前編 大ヒット上映中!
後編 6月11日より、MOVIX仙台、MOVIX利府、109シネマズ富谷、フォーラム仙台、イオンシネマ石巻、イオンシネマ名取、シネマ・リオーネ古川で公開

ストーリー
主人公・三上義信は、警察という組織の中で生きる葛藤を背負い込みながら、広報官として常にマスコミからの外圧に晒される毎日。さらに娘の家出失踪という家族の問題も抱えている。そんな三上が、昭和64年に起きた少女誘拐殺害事件「ロクヨン」事件の真相にたどりついた先に見たものとは――。
【ライター 鈴木紘子】

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