【セミナーリポート】仙臺いろはウェルネスセミナー 「医師と考える 更年期と手の不調」

東北大学大学院医学系研究科 婦人科学分野教授の齋藤先生が座長を務める「仙臺いろはウェルネスセミナー」。今回は「医師と考える 更年期と手の不調」をテーマに開催されました。本記事ではセミナーの内容を抜粋してお届けします。

仙臺いろはウェルネスセミナー 「医師と考える 更年期と手の不調」
2025年10月25日、仙台市内で開催

教えてくれたのは

<座長>
東北大学大学院医学系研究科 婦人科学分野教授
東北大学病院 周産期母子センター長
齋藤 昌利(さいとう まさとし)先生

<講師・パネリスト>
東北大学 産婦人科 助教
横山 絵美(よこやま えみ)先生

<講師・パネリスト>
国立病院機構 仙台医療センター 総合外科部長
鳥谷部 荘八(とりやべ そうはち)先生

セミナーの内容

【第1部】横山先生による基調講演「知って安心!更年期の原因と対策のヒント」/鳥谷部先生による基調講演「更年期と女性の手のトラブルについて」
更年期は「我慢するもの」「年をとった証拠」といったネガティブなイメージを持たれがちですが、実は女性の誰もが通るライフステージの一つです。横山先生には、更年期症状の原因と、未来の健康を見据えた具体的な対策についてお話いただきました。また、鳥谷部先生の講演では、女性特有の手のトラブルに焦点を当て、注射や手術を回避するための多角的な治療を紹介いただきました。

【第2部】パネルディスカッション「女性のヘルスケア~ココロとカラダを健やかに~」
更年期を迎えた方はもちろん、いずれ更年期を迎える方から更年期を過ぎた方まで。幅広い年代の方が参加した本セミナー。参加者から事前に寄せられた多くの質問・相談に対し、齋藤先生、横山先生、鳥谷部先生、3名の先生方に、丁寧に分かりやすくお答えいただきました。

【はじめに】座長・斎藤先生からご挨拶

本日、非常にたくさんの方々にお集まりいただいたということは、今回のテーマが皆さん非常に興味のある分野なのだと思います。今回は「更年期と手の不調」について、横山先生と鳥谷部先生、2人の先生方にご講演を賜ります。みなさん、更年期や手の不調、どのタイミングで病院へ行ったらいいのかなかなか難しいところだと思います。本日はそういったところを皆さんと一緒にお勉強して、ぜひともセルフケアにつなげていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。(齋藤先生)

横山先生が更年期について解説!
【第1部】「知って安心! 更年期の原因と対策のヒント」

女性ホルモンと更年期症状

更年期〇×クイズ
(以下すべて横山先生)まずは更年期について、知っているようで意外と知らないかもしれないクイズからはじめます。

クイズ
Q1 更年期以降の女性は、女性ホルモンの分泌が低下する。
Q2 女性ホルモンが低下すると、悪玉コレステロールが増える。
Q3 更年期症状は、出産経験がない女性に重く現れる傾向がある。
Q4 ホルモン補充療法は大腸がん・食道がんのリスクを上げる。
Q5 閉経後から骨密度の低下が始まる。

答えは講演の中で解説していきます。

女性ホルモンとは?
女性ホルモンは大きく分けてエストロゲンとプロゲステロンという2種類の性ステロイドホルモンを指しますが、更年期で特に重要になるのがエストロゲンです。エストロゲンは、女性の体を若々しく保つ役割があります。

女性の体にとってのエストロゲンの作用
・乳腺…乳管の発育を促進
・骨…骨量を増やし、骨を強く保つ
・脂質…HDL(善玉)コレステロールの増加、LDL(悪玉)コレステロールの減少
・皮膚…コラーゲンの増加、肌の乾燥防止、ハリの保持

更年期症状とは?
閉経は、最後の月経から1年間月経がない時点で「1年前の最終月経をもって閉経した」と考えます。日本人女性の閉経年齢の中央値は50.5歳。更年期は、閉経の前後約5年、エストロゲン分泌が急激に低下してくる50歳前後の時期で、計10年間となります。

【Q1の答え】
「更年期以降の女性は、女性ホルモンの分泌が低下する」の答えは〇です。

更年期にエストロゲンの低下によって引き起こされる症状は、時間とともに変化します。

更年期の体の変化
・40歳前半…月経不順や不正出血
・更年期…ホルモンバランスの乱れによる自律神経失調症状(のぼせ、ほてり、発汗)や精神症状(疲れやすい、眠れない、イライラ)。エストロゲン低下に伴い悪玉コレステロールが増え、脂質異常症や動脈硬化のリスクが高まる。
・老年期にかけて…腟炎、かゆみ、脂質異常症、動脈硬化、骨粗しょう症

ただし、これらの症状の裏に脳腫瘍やメニエール病などの他の病気が隠れている可能性もあるため、「更年期だから」と決めつけず、まずは専門の先生に相談し、これらの病気がないときに初めて更年期症状という診断になります。

【Q2の答え】
「女性ホルモンが低下すると悪玉コレステロールが増える」の答えは〇です。

なぜ更年期症状はおこる?対処法は?

自分の更年期症状をチェックしてみよう!
更年期症状の自己チェックをしてみましょう。各項目の症状の度合いの点数を足して合計得点を出し、簡略更年期指数と照らし合わせてみてください。

更年期症状の原因はエストロゲンの低下だけじゃない!
更年期症状の原因は、この時期特有のライフステージの背景も大きく影響します。

更年期は変化の時期
・体の変化や、体力・気力の低下
・仕事の内容や責任の重みの変化
・身近な人の不幸、人間関係の喪失
・両親の介護、子どもの自立など家族の状況の変化

【Q3の答え】
「更年期症状は出産経験がない女性に重く現れる傾向がある」の答えは×です。

更年期症状の対処法は、薬による治療とセルフケア
更年期症状には、薬による治療やセルフケアを上手に組み合わせることが大切です。

医師による更年期症状の治療
●薬物療法:ホルモン補充療法
・エストロゲンを補って更年期症状を改善する方法。
・飲み薬や塗り薬、貼り薬など様々なタイプがある。
・乳がんや子宮体がんに対しては少し注意が必要だが、医師の管理のもと正しく使用すれば心配は不要。
・大腸がん、食道がんのリスクは下がる。

●薬物療法:漢方薬
・症状が多岐にわたる場合や、心の症状を和らげるのが得意。
・婦人科の三大処方(当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸)をはじめ、月経困難症やイライラやむくみなど、個々の症状に合わせて用いられる。

【Q4の答え】
「ホルモン補充療法は大腸がん、食道がんのリスクを上げる」の答えは×です。

薬物療法に加えて、日々のセルフケアを心掛けることで症状を和らげることもできます。

セルフケアによる更年期症状の対処法
●環境整備
・自分の状況を周囲の家族や友人に伝え、理解を得る。
・同じ悩みを持つ人と体や心の辛さを共有する。
・全部自分で抱え込まず、信頼できるかかりつけ医を見つけて相談する。

●生活改善:運動
・ウォーキングやヨガ、水泳などの有酸素運動を継続的に行う。

●生活改善:食事
・更年期に摂取したい栄養素を意識する。
ビタミンB(豚肉、レバー、豆類)、マグネシウム(ゴマ、豆類)…ストレスや不安を軽減
ビタミンE(アーモンド、カボチャ)…脂質代謝の改善
ビタミンD(魚類、キノコ)…骨代謝の改善

・エストロゲンに似た作用があり、様々な効果が期待できる。「エクオール」にも注目。
 ・首や肩のこりを改善 ・ホットフラッシュの頻度を減らす ・骨密度の低下を抑える
 ・LDL(悪玉)コレステロールの値を改善 ・目尻のシワの進行を和らげる
 という報告もあります。

エクオールとは、大豆イソフラボンを摂取して腸内細菌によって代謝されたもので、エストロゲンに似た作用を示すことが分かっています。ただし、エクオールを作れる日本人は2人に1人。エクオールが作れない人は、大豆を食べてもイソフラボンのエストロゲンは様作用が得られません。

大豆イソフラボンの安全な一日の摂取目安量の上限は、1日70~75㎎で、そのうち、サプリメントなど上乗せで摂る場合は1日上限30mg。豆腐や納豆など、和食中心の生活をしていれば無理なく摂取できる量ですが、エクオールを産生できる量にも幅があります。そこで、エクオールを産生できる方もできない方も、特定保健用食品やサプリメントの活用も有効です。大豆食品は良質な植物性たんぱく質なので、エストロゲン効果の期待だけでなく、たんぱく質として摂取を心掛けてください。

老年期を見据えた未来の健康のためのセルフケア

更年期の対策が未来のQOL向上につながる
動脈硬化や骨粗しょう症といった生活習慣病は、老年期になって急に現れるのではなく、実は更年期の間からすでに隠れて進行しています。例えば、女性の骨密度は、閉経後ではなく閉経前から徐々に低下し、閉経で急速に減少します。男性と比べても低下が顕著であり、女性の骨がエストロゲンによって守られていることがよく分かります。

65歳以上の要介護の原因を男性と女性で比較すると、男性の原因1位が脳血管疾患なのに対して、女性の1位は認知症です。ただし、関節疾患と骨折・転倒、という骨粗しょう症を背景とした病態を合わせると断トツの1位であり、QOLを大きく低下させる要因となっています。

【Q5の答え】
「閉経後から骨密度の低下が始まる」の答えは×です。

未来の体をつくる運動と食事の秘訣
老年期を生き生きと過ごすためには、更年期からのセルフケアを継続しましょう。

老年期のセルフケア
●生活改善:運動
ウォーキング、ランニング、エアロビクスなどの骨を刺激する運動が、骨粗しょう症の予防に有効。

●生活改善:食事
脂質代謝や骨代謝の変化に対応するため、和食を中心としたバランスの良い食生活を心掛ける。オメガ3脂肪酸やビタミンD、カルシウム、ビタミンKなど、骨粗しょう症や動脈硬化を予防する必要な栄養素をバランスよくとれる和食はとても優秀な食事。

人生100年時代、約50歳で迎える閉経はちょうど人生の折り返し地点です。今日から始めるセルフケアが、これからの半分の人生のQOL向上に直結します。何かお困りのことがあれば、我慢せずに産婦人科にご相談ください。(以上すべて横山先生)

鳥谷部先生が更年期の手の不調について解説!
【第1部】「更年期と女性の手のトラブルについて」

更年期による手の症状のメカニズム

「使いすぎ」だけではない手の症状の原因
(以下、すべて鳥谷部先生)なぜ、更年期になると手に症状が出やすくなるのでしょうか。手や関節の痛みは、もちろん加齢や使いすぎも一因ですが、それだけであれば、同じ職場の人が全員同じ症状になるはずです。また、近年80代で手の症状がまったくない人もいれば、40代、50代で関節の痛みに悩む人もいます。こうした手のトラブルには、女性ホルモンであるエストロゲン分泌量の低下が関係していると考えられるようになってきました。

エストロゲンの保護作用
エストロゲンは、肌や血管の健康維持だけでなく、実は神経や腱の健康を保つ作用があります。エストロゲンは、体の様々な場所にある受容体に結合することで効果を発揮しますが、その受容体は、関節包や腱鞘、靭帯といった滑膜に多く存在しています。閉経に伴いエストロゲンの量が減ると、腱や腱鞘の保護作用が低下します。これにより、腱や関節が腫れやすくなり、手のトラブルにつながるのです。

更年期に関係する代表的な手の疾患とその特徴

エストロゲンと密接にかかわる手の疾患
手のトラブルで受診する患者さんの実に90%が女性であり、その中の90%が更年期以降の女性であるというデータからも、この時期の手の症状がエストロゲンと密接に関わっていると考えられます。


一つひとつの疾患について詳しく説明していきましょう。

へバーデン結節・ブシャール結節
第1関節が腫れて痛む疾患です。注意すべきは、リウマチとは異なることです。レントゲンで骨のとげがあったり、関節の隙間が狭くなっていたりすればヘバーデン結節と診断できます。第2関節の場合はブシャール結節と呼ばれます。治療はテーピングや薬による痛みの緩和が主で、進行すると関節固定が行われます。当施設では、リウマチや甲状腺機能の検査も必ず行い、隠れた原因がないかチェックしています。

ばね指
ばね指は、更年期の女性、妊娠・産後、糖尿病患者などに多く、腱や腱鞘が腫れて炎症を起こす疾患です。原因の一つに女性ホルモンの減少が深く関わります。治療は安静が基本ですが、難しい場合は腱鞘内注射を行います。ただし、ステロイドによる腱の弱体化を防ぐため、注射は基本的に3回までと回数が決まっています。最終的には手術もありますが、注射も手術も痛みを伴うことをご留意ください。

ドケルバン病
親指の付け根に起こる腱鞘炎で、更年期の女性のほか、スマートフォンやパソコンの使用頻度が高い方にも多く見られます。超音波検査で簡単に診断可能です。治療はばね指と同様に安静が基本。改善しない場合は注射、または手術となります。特に手首の手術は神経が近くを走っているため、なるべく避ける方針で治療にあたっています。

母指CM関節症
親指の付け根の関節の疾患で、使いすぎ、加齢、骨折や脱臼など過去の既往歴などから発症します。女性に多い疾患ですが、親指を酷使する職業の男性にも見られます。
進行度と痛みの強さには相関がないのが特徴です。治療は、緩んだ靭帯のサポートをするための固定装具。手術には「関節固定術」と「関節形成術」などがありますが、手術法が多いということは、裏を返せば決定打に欠けると言えます。

手根管症候群
しびれが主症状で、親指から薬指の半分に生じ、明け方にしびれで目が覚めることもあります。手根管という手首にあるトンネルの中で腱や滑膜が腫れて正中神経が圧迫され、しびれが生じます。従来の手術ではなく、現在では内視鏡を使った負担の少ない手術が主流となっています。

セルフケアの可能性

日常でできる基本的なセルフケア
痛みがある時には、あまり動かさないよう固定をするのが大事ですが、根本的には血流を良くするような日々のセルフケアも大切です。

●主なセルフケア
・指のストレッチ
・朝のこわばり対策として、手を温める。

エクオールの役割
エストロゲンが減少して手指の症状が出てきたとき、ホルモン補充療法は有効な選択肢ですが、しっかりとした婦人科医の診断が必要です。それに代わる選択肢として注目されているのがエクオールです。

エクオールは、横山先生の講演でも紹介された通り、大豆イソフラボンが腸内細菌によって代謝されたもので、エストロゲンに似た作用で疼痛の緩和や進行予防に有効だと考えられています。ただし、エクオール産生菌があっても、腸内環境によって作られない場合もあります。

注射・手術を回避するための最新の治療戦略

メノポハンドへのアプローチ
診断名がはっきりつかないが、手指がこわばる、ギシギシする、むくむといった更年期特有の症状は「メノポハンド(正式名称はメノポーザルハンド)」と呼ばれ、女性ホルモンだけでなく、使いすぎ、糖尿病、膠原病、甲状腺疾患などが複雑に絡んでいます。

これに対して、多角的なアプローチで症状の改善を図ることで、注射や手術をなんとか避けたいというのが我々の考えです。

注射・手術の前にできる治療やセルフケア
<治療>
・漢方治療(症状に合わせた処方)
・原疾患の治療(糖尿病や甲状腺疾患など)
<セルフケア>
・装具やテーピングの使用
・エクオールの摂取

実際の症例紹介
多角的なアプローチで手術を回避できた複数の症例をご紹介します。

このように、手術や注射の前に、様々な対処法があります。エクオールだけでなく、漢方薬や装具、テーピングなどを総合的に組み合わせることで、手術や注射を回避することができるかもしれません。(以上すべて鳥谷部先生)

参加者の質問に齋藤先生・横山先生・鳥谷部先生が答える!
【第2部】「女性のヘルスケア~ココロとカラダを健やかに~」

ホットフラッシュの症状をどうにかしたい!

Qホットフラッシュはほぼ毎日。いつになったら汗をかかずに快適に過ごせるのでしょうか。(50代)
横山先生:更年期は閉経前後の5年、計10年間程度とお話ししましたが、これは様々な更年期症状が出やすくなる期間の目安であり、ホットフラッシュが10年間続くわけではありません。ホットフラッシュの平均的な持続期間は4〜5年程度が多いと言われており、短い方で1〜2年、長い方で10年以上と個人差は大きいです。ただ、日本人女性は閉経後5年以内に症状が軽減される方が多いというデータがあります。ホットフラッシュにはホルモン補充療法以外に漢方薬も有効なので、困った場合はぜひ医師に相談してください。

齋藤先生:5年、10年と聞くと、少し暗い気持ちになられる方も多いかもしれませんが、横山先生がお話しされたように、ホルモン補充療法や漢方など、症状を和らげる方法はあります。決して無理に我慢したり、諦めてしまったりすることなく、他の基礎疾患でないか確認するためにもぜひ医師に相談してほしいですね。

Qホットフラッシュや気分の落ち込みなどの症状があります。一時期手の関節のこわばりもありました。症状を和らげ、快適に過ごせる方法を教えてください。(50代)

横山先生:ホットフラッシュや気分の落ち込みに加えて、手の関節のこわばりを訴える方は非常に多いです。ホットフラッシュにはホルモン補充療法、気分の不調には漢方が有効なので、まずは婦人科外来で相談してください。手の関節のこわばりについても、他の更年期症状と一緒に出ている場合は、婦人科外来でも相談できます。症状が軽ければ、毎日のストレッチといったセルフケアも試してみてください。

齋藤先生:漢方薬はドラッグストアにも並んでいますが、「どれが自分に合うか」を選ぶのは難しいですよね。私たち医師も、症状を緩和させるためにいくつかの漢方を組み合わせたり、服用回数や量を調整したりと試行錯誤しています。皆さんもご自身でトライするときは、一つにこだわらず試してみる、あるいは思い切って医師に相談してみてください。

手指の不調の対処法について

Q朝起きた時の手のこわばりがひどいです。朝にこわばりが出るのはなぜですか。また、緩和する良い方法はありますか。(40代)
鳥谷部先生:寝起きに手がこわばったりするのは、夜間安静にしていた手が、起きて動かそうとするときにエンジンのように動き出しが悪いためです。もう一つは、ホルモンは夜間に出るもので、年齢とともに分泌量が減るため、朝のスムーズな活動が難しくなるという側面もあります。緩和する方法は、漢方薬やエクオールを夜に飲んだり、夜は少し多めに飲んでみたり、工夫をしてみるのが良いでしょう。また、冷えは良くないので、室温を上げて寝たり、起きる時に暖かくなるようにタイマーを設定したりするのも有効です。どうしても辛い場合は、朝起きてすぐ洗面器にお湯をはり、手を温めてから活動し始めてください。いきなり冷たい水で家事をすることは避けてくださいね。

Q手指の痛みを感じた際の対処法や、どれくらい痛みが続いたら病院を受診した方が良いか教えてください。(50代)
鳥谷部先生:痛みには明確な基準はありませんが、少しでも気になったら、積極的に近所の整形外科などで診てもらい、レントゲンなどを撮ってもらうのが良いでしょう。手の痛みの裏にリウマチなどの病気が隠れている場合もあり、早期診断・早期治療が非常に重要です。対処法としては痛む場所によって違うので、市販の飲み薬でごまかさず、湿布などでダメな場合はすぐにクリニックを受診して、必要であれば大きな病院を紹介してもらいましょう。

Qただの不調と更年期の違いが分かりません。手の不調の場合、どこの科を受診したらよいのでしょうか。(50代)
横山先生:体の不調が更年期によるものなのか、それ以外によるものなのかを、ご自身で判断するのは難しいと思います。手の不調以外にもホットフラッシュや気分の不調などが一緒にある場合は、更年期による症状の可能性があるので、ぜひ婦人科を受診してください。手の不調が強い場合は、整形外科などのクリニックを受診するのがよろしいかと思います。病院で症状を伝える際は、一番強い症状は何か、どんな時に強いのか、他にどのような症状があるかなどを整理して伝えていただくと、私たち医師側も原因を調べていきやすいです。

鳥谷部先生:手の不調に関しては、基本的には近所の整形外科クリニックを受診してください。そこでさらに気になるようであれば、「専門の施設を紹介してください」とお願いするのが良いでしょう。また、たくさんの整形外科クリニックを受診されている方もいらっしゃいますが、注射を何回されたかは非常に大事な情報です。注射の回数は決まっているので、それ以上はできないことがあります。その点は包み隠さずお話ししてください。

痛みは我慢?ずっと続くの?

Q 10年前くらいに手指の痛みがあり、整形外科を受診。年齢からくるもので良くならないと言われました。関節の腫れや痛みはずっと続いています。このまま我慢するしかないのでしょうか。(50代)
鳥谷部先生:腫れや痛みが続いているなら、日常生活に支障をきたしてしまいますから、我慢する必要は全くありません。実例でお示しした通り、痛み止めを飲まなくても関節の腫れや痛みを和らげる方法はたくさんあります。場合によっては注射でかなり良くなることもありますし、様々な選択肢があります。特に、手の専門の先生は「日本手外科学会」の認定専門医として宮城県に何名かいらっしゃいます。学会のホームページで手のスペシャリストを探して受診されると、現在よりも良い治療を受けられる可能性が高いと思います。

Q長く続く肘の痛み、起床時の指関節の違和感、指が動かしづらいなどの症状は、更年期やホルモンに関係していますか。また、更年期が過ぎれば改善されますか。(50代)
鳥谷部先生:肘の痛みは、ほとんどがストレッチ不足によるものなので、ストレッチで改善することが多いでしょう。一方、起床時の指の違和感や動かしづらさは、ホルモン関係が原因の可能性が高いです。ヘバーデン結節のように、更年期が過ぎると痛みが軽減するものもありますが、母指CM関節症や手根管症候群、ばね指などは、改善しないばかりか治療が遅れると症状が残るリスクがあります。我慢せずに専門医に相談してください。

Qへバーデン結節のなり始めと診断を受けました。骨の変形はまだありませんが、急な指の関節の腫れに戸惑っています。悪化させないためにはどうしたら良いですか。(40代)
鳥谷部先生:急に関節が腫れて痛みがある場合、ヘバーデン結節ではなく、リウマチなどの疾患の可能性もあります。そのため、まずはそれが本当にヘバーデン結節なのかどうか、正確な診断を受けることが大切です。仮にヘバーデン結節と診断されたとして、悪化を防ぐための対策ですが、まずは食生活を見直すことから始めてください。また、漢方薬やエクオール、ビタミン剤(ビタミンE)を試しても良いと思います。治療として漢方薬が有効な場合があります。特に冷えは大敵なので、痛みを和らげるためにも冷やさないよう心がけてください。

Q10年前に母指CM関節症と診断され、更年期が終われば症状も落ち着くものと思っていたのですが、だんだんひどくなる一方です。注射や手術以外に治る見込みはないのでしょうか。(50代)
鳥谷部先生:母指CM関節症は親指の付け根の関節の疾患で、非常によく動く関節のため、年齢が上がっても痛みが取れにくいのが特徴です。更年期が終わっても、痛みはそのまま残ってしまうことが多いでしょう。治る見込みについてですが、「治る」を「痛みがなくなる」と定義すれば、痛みをなくすことは十分可能だと思います。変形自体を元通りにはできませんし、痛みを完全にゼロにするのも難しいかもしれませんが、軽い内服薬や装具を使うことで、日常を楽しく過ごせるようになりますから、過度に心配しなくても大丈夫ですよ。

食事や運動、日頃からできるセルフケアは?

Q更年期の手の痛みに効果的な食事のとり方や注意点などを教えてください。(40代)
横山先生: 先ほど講演でお話しした通り、更年期にとっていただきたい栄養素としてビタミンB、ビタミンDやビタミンEがありますが、結局はバランス良い食事をとることに尽きます。過剰な摂取や暴飲暴食は見直して、3食きちんとバランスよく召し上がっていただくことが一番大切ですね。

齋藤先生:食事は体調管理、特に腸の状態を整えるためにも非常に重要です。大豆など、特定の食材だけを大量にとればいいという短絡的な考えではなく、総合的に色々な食材をバランス良くとることを心掛けましょう。

Q最近、両手が母指CM関節症と診断されました。摂取するとしたらどのような食品が効果的か、また日頃心掛ける手の運動などがあれば教えてください。(50代)
鳥谷部先生:痛みを直接とる食事はないので、横山先生がお話しされたようなバランスの良い食事をとるしかないでしょう。また、大豆食品をとったり、サプリメントを利用したりするのも一つの方法です。手の運動については、逆に過度な運動は避けた方がいいですね。母指CM関節症は、親指の根元の関節の疾患で非常に複雑な動きをする関節のため、親指を外側に向けるような動きはなるべく避けてください。少し動きを制限すると痛みが和らぎますよ。

齋藤先生:「ストレッチやマッサージをした方がいいの?」「動かさない方がいいの?」と、混乱される方もいらっしゃると思います。これはご自身で判断せず、必ず医師の意見を聞いて正しい対処法をとってください。安静にした方が良いのか、ストレッチをした方がが良いのかは、症状によって異なります。ご自分で判断して母指CM関節症を悪化させてしまう可能性も十分にあるので、対処法の注意ポイントとして覚えておいてください。

Q薬を服用せずに更年期を乗り越える方法を教えてください。(50代)
横山先生:薬に頼らず更年期乗り越えることは十分に可能です。大切なのは生活習慣と心の整え方を意識的に変えること。ウォーキングなどの運動は、自律神経や睡眠の質向上に効果的です。「辛い」と言葉に出してパートナーや家族に理解してもらうのも立派なセルフケアです。食事はバランスを重視し、カフェインやアルコールはホットフラッシュを悪化させる可能性があるため控えめに。無理せず、辛い時は医師にご相談ください。

齋藤先生:薬に頼らず乗り切るという強い意志は素晴らしいですが、年齢とともに症状が出てくるのは自然なことです。私たち医療サイドは、「症状とどう付き合っていくか、どう和らげるか」という点で医療を提供しているサポーターだと考えています。頑張りすぎず、辛い時には医療を頼ってくださいね。

様々な更年期の症状。進行するのか、いつまで続くのか、いつ始まるのか不安です。

Q手指の痛みは我慢するしかないのでしょうか。進行するのか不安です。また、食べ物や対処法で緩和する、予防する方法はありますか。(50代)
鳥谷部先生:痛みを我慢する必要は全くありません。痛みが出たら、すぐに近所のクリニックを受診するのが一番です。進行するかどうかは疾患によって違うので、医師に相談すれば不安は解消されるはずです。予防法や対処法について、腱鞘炎や関節症がひどい場合はなるべく安静にすることが大事です。また、肘の痛みなどにはストレッチが有効です。YouTubeなどでリハビリの先生が公開している予防法やストレッチ動画は非常に参考になるので、ぜひ見てみてください。

齋藤先生:病院で診察を受けるメリットの一つは、診断がつくことです。痛みが変わらなくても、「こういう病態で痛みが出ている」と分かると納得できて、心の安心につながります。そういった意味でも、ぜひ医療を活用していただきたいですね。

Q更年期症状は閉経前後5年の10年間とお聞きしました。長引くこともありますか。長い人はどれくらい続きますか。(50代)
横山先生:更年期症状はおおよそ10年程度と言われていますが、もちろん個人差があり、それ以上長く続く方もいらっしゃいます。症状が長引きやすいタイプとしては、ストレスが多く自律神経が乱れている方、睡眠不足や運動不足、急激なダイエットをした方などです。

また、甲状腺の病気などが隠れている場合もありますが、多くの方は適切に対処すれば徐々に軽くなります。生活習慣の改善や、お薬、漢方などをうまく活用していきましょう。

齋藤先生:横山先生から甲状腺疾患のお話がありましたが、甲状腺の病気は症状が更年期症状とかなり似ていることが多いです。漢方薬などで一時的に良くなることもありますが、実は甲状腺の病気が隠れていることもあるので、病院を受診していただくことが大切です。決して「生涯ずっと更年期」ということはないので、そこは安心してください。

Q現在、更年期の症状を自覚していませんが、今後自分ではどうしようもなくイライラしたり、落ち込んだりしないか不安です。今から備えておくことはありますか。(40代)
横山先生:
「今から備える」という姿勢は予防医学の理想であり、とても素晴らしいことです。更年期を軽く乗り切るには、心と体の備え、そして知識が大切になります。具体的には、婦人科などのクリニックリストを用意したり、サプリメントや漢方薬といった気軽に始められる選択肢を把握したりしておくと良いでしょう。更年期は病気ではなく、誰もが通る自然な変化で、全ての方が強い症状を感じるわけではありません。この時期を心と体を見直すチャンスと捉え、今から状態を整えておくことが最大の予防法になります。そして、困った時はぜひ医師にご相談ください。

まとめ

本セミナーでは、女性の心と体に深く関わる更年期について、産婦人科と整形外科という多角的な視点から知識を深める貴重な機会となりました。症状の原因を理解し、「セルフケアや専門的な治療によって症状は緩和できる」というメッセージを受け取ることで、更年期に対する不安を軽減することができます。自身の心と体への向き合い方を見直し、症状を我慢したり自己判断したりせず、気軽に相談できるかかりつけ医を見つけることの重要性を再確認するセミナーとなりました。

動画チャプター
01:29 質問1(ホットフラッシュについて)
04:00 質問2(ホットフラッシュと手の関節の強ばり)
08:07 質問3(朝起きた時の手のこわばり)
11:59 質問4(手指の痛み対処法)
15:03 質問5(ただの不調と更年期の違い)
18:47 質問6(関節の腫れや痛み)
22:05 質問7(手指や肘の違和感・痛みと更年期やホルモンの関係)
27:13 質問8(ヘバーデン結節について)
29:58 質問9(母指CM関節症について)
32:30 質問10(更年期の手の痛みについて)
34:47 質問11(母指CM関節症と食品・運動について)
38:27 質問12(更年期と薬の服用について)
42:01 質問13(手指の痛みと食べ物について)
45:37 質問14(更年期の症状)
48:41 質問15(更年期への備え)

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※このページの情報は2025年12月24日現在のものです。
【仙臺いろは編集部】

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