2023.11.20

【セミナーリポート】仙臺いろはウェルネスセミナー「ココロとカラダを元気に…医師と考える女性ホルモン」

東北大学名誉教授の八重樫先生が座長を務める「仙臺いろはウェルネスセミナー」。3回目となる今回は、「ココロとカラダを元気に…医師と考える女性ホルモン」をテーマに開催されました。本記事では、セミナーの内容を抜粋したテキストリポートをお届けします。ココロとカラダを元気にするヒントをおすそ分け!

仙臺いろはウェルネスセミナー 「ココロとカラダを元気に… 医師と考える女性ホルモン」
2023年10月15日、仙台市内で開催

教えてくれたのは

<座長>
東北大学 名誉教授
仙台赤十字病院 院長統括補佐
八重樫 伸生(やえがし のぶお)先生

<講師・パネリスト>
東北大学病院
漢方内科・産婦人科
大澤 稔(おおさわ みのる)先生

<パネリスト>
仙台赤十字病院
産婦人科 部長
佐藤 多代(さとう かずよ)先生

<セミナーの内容>
【第1部】大澤先生による基調講演「その症状…女性ホルモンの影響かも」
「皆さんが今感じている症状は、女性ホルモンの影響かもしれません」と話すのは、大澤先生。中高年更年期医学、閉経後の骨粗しょう症の治療、ホルモン補充療法、漢方東洋医学を専門とする大澤先生ならではの、多角的なアプローチによる女性のカラダと心にまつわる話は、「そうだったんだ!」という発見と納得の連続です。更年期や老年期をすこやかに過ごすためのセルフケアのアドバイスも必見!

【第2部】パネルディスカッション「女性のヘルスケア…ココロとカラダを元気に」
更年期まっただ中の人から、いずれ更年期を迎える人、更年期を過ぎた人まで。20代〜60代の女性たちが参加した本セミナー。参加者からはたくさんの質問・相談が寄せられ、更年期の症状や月経に悩みを抱えている人が多い実情を感じました。「何かしらのヒントを持ち帰ってほしい」と八重樫先生、大澤先生、佐藤先生が時間の許す限り質問に答えてくれました。「私も今まさに更年期です」と話す佐藤先生は、リアルな体験談や悩みもシェアしてくれて、会場内は頷きが止まりませんでした。

【はじめに】座長・八重樫先生からご挨拶

2021年にスタートした「仙臺いろはウェルネスセミナー」は、今年で3回目を迎えました。今回は過去最大の規模で、200人の皆さんにご来場いただきました。産婦人科医の大澤先生と佐藤先生と一緒に、女性ホルモンをテーマに考えていきます。先生たちは医療現場の第一線で患者さんを診療しながら、女性ヘルスケアのスペシャリストとして、医師向けの講演もされています。直接お話を聞けるのは貴重な機会です。限られた時間ではありますが、楽しんでいってください。(八重樫先生)

女性のカラダの仕組みについて、大澤先生が解説!
【第1部】「その症状…女性ホルモンの影響かも」

知っているようで知らない、女性ホルモン

どこでつくられているの?
(以下すべて大澤先生)女性ホルモンとは、その名の通り、女性のカラダにとって大事なホルモン。「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類あり、女性らしい姿や機能を司っています。実は、男性にもちょっとだけ流れているんですよ。しかし、男性と女性では生殖器が大きく異なります。女性には出産時に赤ちゃんが通る産道、腟があり、子宮、卵巣がありますよね。女性ホルモンは主に卵巣でつくられ、一部は副腎でつくられています。

脳がホルモン分泌の司令塔
卵巣でつくられた女性ホルモンがカラダ中を巡ることを「分泌」「内分泌」と言います。卵巣が勝手に出しているわけではありません。脳の視床下部から下垂体、下垂体から卵巣へと、卵巣を刺激するホルモンが流れることで女性ホルモンが分泌されています。血液中に流れるエストロゲンの濃度が低いときには、「もっと出してください」とプラスの指令が送られ、逆に濃度が高いときには、「足りています。お休みしましょう」とマイナスの指令が送られます。そうしたフィードバックによって、エストロゲン濃度がバランス良く調整されています。女性のカラダの素晴らしい機能です。

エストロゲンの恩恵はたくさん!
エストロゲン自体が直接何かをしているわけではありません。体内にあるエストロゲンの受容体にくっつくことで、力を発揮します。受容体とは、ホルモンがハマって押し込むスイッチのこと。エストロゲンの受容体は、女性特有の子宮、卵巣、乳腺にあるほか、意外かもしれませんが、骨や血管、皮膚にもあります。全身の細胞に有効スイッチがあるんです。初経を迎えると乳房のハリが出てくる、骨を丈夫にする、HDL(善玉)コレステロールを増やしてLDL(悪玉)コレステロールを減らす、皮膚にうるおいやハリを与えるなど、女性のカラダのさまざまな部分にエストロゲンの働きが関与しています。

分泌量は年齢とともに変化
エストロゲン分泌量は、思春期(10歳前後)から上がり、20代前半ごろがピークです。その後は少しずつ下がっていきますが、45歳ごろから更年期に入ると急激に低下。エストロゲン量が低下して受容体にはまらなくなると、骨や血管が弱くなる、皮膚が乾燥するなど、さまざまな変化が現れるように。女性は年齢とともにエストロゲンのパワーを感じるようになります。

更年期の症状はホットフラッシュだけじゃない

更年期はいつから?
無月経が12カ月続くと「閉経」となり、最終月経時の年齢が「閉経年齢」となります。日本人の平均閉経年齢の中央値は50.5歳。閉経年齢を境に、前後5年(計10年間)を「更年期」と言います。この時期に起こる症状で、ほかの病気が原因による症状を除外したものを「更年期症状」と言い、日常生活に支障が出るほど重度な場合には「更年期障害」と診断されます。

初期に現れるのは、月経不順や不正出血
閉経は、突然訪れるわけではありません。はじめは、無月経が1〜3カ月続いてから月経が来るというのを繰り返しているうちに、だんだんと無月経の期間が長くなり、最終的に無月経が1年続くと閉経となります。更年期のはじめには、そうした月経不順や不正出血を心配し、産婦人科を受診される人も多いです。

意外!? 一番多いのは肩こり
日本人女性の更年期症状を多い順に並べたランキングです。

日本人女性の更年期症状

1位 肩こり
2位 疲れやすい
3位 のぼせ
4位 頭痛
5位 腰痛
6位 汗をかく
7位 不眠
8位 イライラ
9位 皮膚がかゆい
10位 動悸
11位 気分が沈む
12位 めまい
13位 胃もたれ
14位 腟の乾燥感
※廣井ら、1997

「更年期=ホットフラッシュ」ではない
更年期の症状でイメージしやすいのは、いわゆるホットフラッシュ(のぼせやほてり、発汗)ではないでしょうか。おでこや首筋、ワキなど、主に上半身があつくなるのが特徴です。しかし、日本人女性で更年期にホットフラッシュを感じている人は2〜3割程度で、あまり多くないことがわかります。「ホットフラッシュがないから、私は更年期症状がない」とおっしゃる人もいますが、そうではありません。

ネガティブスイッチが入りやすい
疲労感、不眠、不安、憂うつなど、精神的な症状が現れやすいのも特徴です。「更年期=イライラする」といったイメージもあるようですが、イライラだけではなく、抑うつも多い傾向に。女性ホルモンの低下がきっかけとなり、ネガティブなスイッチが入りやすくなると考えられています。ホットフラッシュやイライラの有無だけで判断せず、更年期にはさまざまな症状が起こることを知っておいてください。

更年期症状はなぜ起こる?

①エストロゲン低下で自律神経が乱れるから
エストロゲンが低下すると、脳の視床下部が誤作動し、自律神経が不安定に。疲労感やホットフラッシュ、精神的な症状など、更年期症状の多くは、そうした自律神経の乱れからくると考えられています。

②カラダが変化する時期だから
月経停止や乳房の萎縮など、カラダが大きく変化する時期。今まで普通にできていたことができなくなり、年齢による体力や気力の低下を感じ始めるときでもあります。

③仕事や家族も変化の時期だから
仕事では責任ある役割を任される時期。また、身近な人の不幸によって人間関係の喪失を感じるようにもなります。両親の介護や夫婦関係の変化、子どもの自立など、家族の変化も重なる時期です。

あなたは悪くない
このように更年期特有のライフステージが関係し、さまざまな変化が重なることで症状が起きいます。変化の時期ですから、「自分はダメだ」「自分の心が弱いせい」と思わなくていいんですよ。

日常生活に支障が出たら「更年期障害」。早めに治療を

治療法はいくつもある
更年期症状の治療には、ホルモン補充療法、漢方療法、向精神薬、カウンセリング(心理療法)があります。なかでも代表的なのが、ホルモン補充療法です。女性ホルモンが低下することによって症状が起こるわけですから、女性ホルモンを補うことで症状の緩和を目指します。子宮がある女性の場合は、エストロゲンと黄体ホルモン(プロゲステロン)をセットで摂取するのが原則です。飲み薬のほかに、貼り薬や塗り薬もあります。肝機能への影響や皮膚の過敏の程度、合併症、薬の価格などを見ながら、患者さんに合った治療法を提案します。

女性は骨粗しょう症になりやすい
女性の骨密度は、エストロゲン量に伴って閉経前から徐々に低下していき、閉経後に急激に低下します。動脈硬化や骨粗しょう症などの生活習慣病をはじめ、老年期に起こりやすい病気は、更年期から隠れて進行しています。特に骨粗しょう症は、男性よりも女性のほうがなりやすいというデータも(※1)。女性65歳以上の要介護の原因1位は認知症ですが、関節疾患や骨折・転倒といった骨粗しょう症が背景の病態をあわせると、断トツの1位となります(※2)。そうした病気を防ぐために、閉経後も引き続き産婦人科を活用してください。
※1:井上、1985 ※2:内閣府 平成30年度版高齢社会白書

更年期・老年期に向けて。カラダのメンテナンスを始めよう

①自分の環境を自分で整える
周囲の人(家族や友人)に可能な範囲でカミングアウトし、状況を理解してもらいましょう。同じ悩みをもつ友人とカラダや心の痛みを共有しましょう。信頼できるかかりつけ医を見つけ、適切に医療と関わりましょう。

②運動を習慣にする
更年期には、ウォーキングや水泳などの有酸素運動が効果的です。ヨガは心理的症状やホットフラッシュの緩和が期待できます(※)。老年期には骨量低下の予防としてウォーキングやランニング、エアロビクスがおすすめです。仕事や家事、育児、介護で忙しいとは思いますが、まずはお散歩でも良いので、できることから続けてみましょう。
※:Shepherd-Banigan M et al. 2017

③食生活を見直そう
更年期に入ると、基礎代謝量とエストロゲンの低下によって、脂質代謝や骨代謝の変化が起こります。更年期以降、積極的にとりたい成分は次の通りです。

更年期の症状を緩和する成分
・ビタミンB(豚肉、レバー、豆類など)…ストレスや不安を軽減
・マグネシウム(ごま、豆類など)…ストレスや不安を軽減
・ビタミンE(アーモンド、かぼちゃなど)…脂質代謝を改善
・ビタミンD(魚類、きのこなど)…骨代謝を改善
・エクオール(大豆など※)…更年期症状を緩和
※エクオールとは、大豆イソフラボンのうちダイゼインが腸内細菌によって代謝されてできる成分。エストロゲン受容体にくっつき、エストロゲンに似た作用を発揮します。

老年期の骨粗しょう症・動脈硬化を予防する成分
・オメガ3脂肪酸(魚類など)
・ビタミンD(魚類、きのこなど)
・カルシウム(乳製品、豆類など)
・ビタミンK(納豆、ほうれん草など)

和食は理想的な健康食
大豆および大豆イソフラボンに関する研究で、次のようなデータがあります。※麻生ら、2012
日本人の更年期女性のホットフラッシュは米国人より少ない
日本人の乳がんによる死亡率は米国人の1/4
日本人の心臓病による死亡率は欧米人に比べて低い
日本人の骨粗しょう症による大腿骨折率は米国人の半分

この差は、大豆の摂取量によるのではないかと考えられています。私たち日本人は、納豆や豆腐、豆乳などの大豆製品を日常的によく摂取していますよね。魚や野菜中心の和食は、オメガ3脂肪酸などもとれます。日本人で良かったなと感謝し、ぜひ和食を食べ続けましょう。

サプリメントや特定保健用食品を活用
必要な成分をバランス良くとるのが理想ですが、日々の食事では補いきれない成分もあります。なかでもエクオールについては、日本人女性の2人に1人、アメリカ人女性の4〜5人に1人が産生できることが確認されています。一方、大豆を食べても、エストロゲンに似た作用が得られない人がいることもわかっています。
不足しがちな成分は、サプリメントや特定保健用食品などで摂取するのも一つの方法です。

産婦人科医は一生涯「女性のパートナー」

人生100年時代と言われる今、残りの人生をどう過ごしたいですか? 健康で楽しい毎日を過ごしたいですよね。そのためには、皆さんの体内に流れているエストロゲンについて知っていただき、セルフケアをしていただきたいです。できれば閉経前から始めてほしいですが、今からでも遅くありません。困ったときには、私たち産婦人科医が皆さんのパートナーになります。(以上すべて大澤先生)

参加者の質問に八重樫先生・大澤先生・佐藤先生がアンサー!
【第2部】「女性のヘルスケア…ココロとカラダを元気に」

更年期の症状はいつまで続くの?

Q.更年期は過ぎました。ホットフラッシュは、いくつまで続くのでしょうか?(60代)
大澤先生:女性ホルモンが低下した状態に、カラダが慣れて安定するまでは4、5年かかります。また、閉経後も女性ホルモンは少量出ており、その値が揺らいでいることがわかっています。更年期を過ぎた60歳〜65歳でホットフラッシュなどの症状が始まる人もいらっしゃいます。治療法は更年期と同じです。

Q.45歳で子宮と付属臓器を全摘出。その後、急な更年期症状に悩まされています。どのくらいの期間続くのでしょうか? 漢方と貼り薬でホルモン補充治療をしていますが、改善していません。(40代)
八重樫先生:子宮摘出によって女性ホルモンが急激に低下し、カラダがとても不安定な状態だと思います。主治医の先生に相談し、早めに対処してください。

佐藤先生:大澤先生もおっしゃっていたように、「更年期が抜けた」という感覚はだいたい4〜5年と言われています。しかし、早いと1〜2年で改善する人もいますし、落ち着いたかなと思ったらぶり返す人もいます。環境の要因も関係しているのかなと思います。意外と緊張しているときには症状が出ません。例えば、親の介護や子どもの受験など、誰かのためにがんばっているときにはそのまま駆け抜けていったのに、行事が落ち着くと、荷物を降ろしたかのようにドッと症状が出てくるケースも。でも必ず、抜けるときが訪れますよ!

これって更年期? 病院に行くべきか迷う

Q.更年期の症状なのか、最近息苦しさや不安になることがあります。呼吸が浅くなって止めていることがあったり、夕方以降に気持ちが落ち着かなくなったり、将来のことを不安に感じたり、など。受診したほうが良いでしょうか?(40代)
八重樫先生:更年期には精神的な症状もよく起こります。しかし、更年期によるものなのか、そうではないのか区別がしづらいとも聞きます。

大澤先生:受診すべきか悩むよりも、受診したほうが早いです。産婦人科はもちろん、かかりつけ医やご近所のクリニックで構いません。医師のアドバイスを受けて、息苦しさや不安を解決することが先決です。

Q.何もやる気が起きず、何にも興味が湧かない。以前気にならなかったことがとても気になり、くよくよする。睡眠障害がある。こうした症状は婦人科、心療内科のどちらを受診したら良いですか?(40代)
大澤先生:やる気が起きない、以前気にならなかったことが気になる、くよくよするのは、更年期の代表的な症状です。そういう状態では、ぐっすり眠れないのも当然です。しかし、「この症状なら、この診療科に行くべき」という決まりはありません。何かしらの医療機関を受診すれば、適したアドバイスがもらえます。かかりつけ医または、産婦人科と心療内科のどちらでも構いませんので、早めに受診をしてください。

Q.指先のしびれや腰痛があり、苦しんでいます。更年期のせいでしょうか?(60代)
Q.ホルモンの影響による肩こり、関節等の痛みを少しでも和らげる良い方法はありますか?(40代)

佐藤先生:更年期のせいの場合もありますし、更年期のせいではない場合もあります。私も半年前から左肩が上がらず、手術のときに痛い思いをしています。手指の関節や付け根が腫れる、痛い、曲げたまま動かないといった症状や腰痛も、更年期で起こりやすいものです。しかし、関節リウマチや脳梗塞、骨粗しょう症など、そのほかの病気が隠れている可能性もあります。すべてを更年期のせいにしないことが重要です。理由はわからないけれど、骨や関節に異常がある場合は、整形外科を受診してください。日本整形外科学会のホームページで専門医を調べられます。

八重樫先生:自己判断せずに、医療機関を受診しましょう。

もっと知りたい、更年期の治療・セルフケア

Q.ホルモン補充療法は何歳まで、もしくは何年ぐらい続けて良いものでしょうか? 長期間続けることのデメリットはありますか?(50代)
佐藤先生:ホルモン補充療法ガイドラインによれば、年齢や期間の制限はありません。ホルモンの薬は、「今日は調子悪いから飲む」「今日は調子良いから飲まない」といった服用はできません。不正出血が起きてしまいますので、きちんと飲み続けることが前提となります。カラダに合わない、効果を感じない、薬を飲まなくても良いかもしれないと思う場合は、主治医の先生に相談してください。糖尿病や高血圧など、ほかの薬も増えたのをきっかけにやめる人もいらっしゃいます。

Q.更年期に備え、エクオールなどのサプリメントや漢方薬はいつ頃から飲んだら良いでしょうか?(40代)
大澤先生:漢方薬は医薬品となるため、予防としての適用はありません。しかし、血行不良や月経トラブルなど、血の異常に関する症状は漢方が得意とする分野ですので、医師に相談してください。サプリメントの場合はいつから摂取しても問題ありません。

Q.発汗、手の痛みなどの症状があり、医師からは加齢や女性ホルモン欠乏のためと言われます。エクオールなどのサプリを60代から飲み始めても効果はありますか?(60代)
大澤先生:エクオールが手指の痛みやしびれを緩和するという報告もあります。エクオールには年齢制限がなく、サプリメントで摂取できる手軽さもあります。ぜひ、お使いになってみてはいかがでしょうか。

Q.卵巣がんや乳がんが遺伝するという話を聞きます。女性ホルモンと関係はありますか?(50代)
八重樫先生:全部ではないのですが、がんになりやすい体質が遺伝するということが近年わかってきています。宮城県の臨床遺伝専門医のリーダーでもある佐藤先生、いかがですか?

佐藤先生:一部は関係しますし、一部は関係しません。乳がんは日本人女性に一番多いがんで、最近の報告では9人に1人がなると言われています。30代後半の乳がんのうちの7割は、ホルモンの影響によるものだそうです。ホルモンの分泌が多い人、初経が早かった人、閉経年齢が遅い人、妊娠・出産回数が少ない人は乳がんになりやすいと考えられています。

また、乳がん患者さんの約5〜10%は遺伝によるもの。遺伝性の乳がんにはいくつか種類がありますが、有名なのは、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんがなった遺伝性乳がん卵巣がん症候群。遺伝子を傷がついた状態で持っているため、特定のがんになりやすい体質だと言われています。そう聞くと、「私は大丈夫かしら?」「怖い」って不安になるかもしれませんが、200人〜500人に1人ぐらいはその遺伝子を持っているので、珍しいことではありません。傷がついた遺伝子を持っている人でも、がんにならない人もいますし、残念ながら、がんになってしまう人もいます。母や祖母、姉妹、いとこ、おばさんなど、近しい女性の親族に乳がんあるいは卵巣がんの人がいらっしゃる場合、ご相談をいただければ、産婦人科でカウンセリングをします。

八重樫先生:自分が遺伝しやすい体質だとわかっていると、出産後に卵巣や乳房を取るなど、手術によってがんを防ぐ方法もあります。心配な人は、産婦人科までご相談ください。

Q.女性ホルモン治療と乳がんの関係について教えてください。(50代)
佐藤先生:ホルモンの薬は、子宮がある人ならエストロゲンと黄体ホルモン(プロゲステロン)をセットで服用します。エストロゲンには子宮の内膜(赤ちゃんのベッド)を育てる働きがあり、黄体ホルモンには内膜を剥がす役割があります。エストロゲンだけをとり続けていると、子宮の内膜が厚くなりすぎて内膜が剥がれ、不正出血が起こったり、子宮体がんのリスクが上がったりしてしまいます。黄体ホルモンを合わせることで予防をします。

八重樫先生:処方する医師の判断とはなりますが、女性ホルモンには2種類あり、どちらかだけをとれば良いのではないということを覚えておいてください。

大澤先生:以前のホルモン療法で使われていた合成の黄体ホルモンが、乳がんの発症に関連していたことがわかりました。現在は天然の黄体ホルモンが登場し、乳がんの発症率はホルモン治療をしていない人と差がなく、安全に治療をしていただけます。一方で、治療の有無に関わらず、定期的な乳がん検診をおすすめしています。

八重樫先生:ここ20年くらいの間でホルモン補充療法はだいぶ変わってきており、以前に比べると安全な治療になってきています。必要な場合には、受けてみて良いのではないかと思います。

閉経したら、注意すべきこと

Q.生理が止まってから気をつけたほうが良いこと、したほうが良いことはありますか?(50代)
佐藤先生:よく、「閉経したので婦人科検診は受けません」とおっしゃる患者さんがいますが、ダメです。卵巣がんなどの病気は、なかなかご自身では自覚症状がありません。きちんと内診をして、お腹や腟から超音波で確認する必要があります。一生涯、婦人科の定期検診は受けてくださいね。

八重樫先生:実は、子宮体がんの患者さんは、50歳以降が多いです。50歳過ぎてからは、子宮体がんにも要注意ですので、引き続き産婦人科でヘルスチェックを受けていただきたいです。

Q.閉経後の体調管理、骨粗しょう症対策として、何をどうすれば良いか教えてください。(40代)
佐藤先生:閉経を境に、健康診断で急に血糖値やコレステロール、血圧などが引っかかるという人も少なくありません。女性の若々しさや健康維持に役に立つエストロゲンの低下によって、生活習慣病対策も欠かせません。日頃から血圧を測るのもおすすめですし、健康診断は定期的に受けてください。歯や目も大事です。特に、自分の歯でごはんをしっかり食べられることは、とても大切。食べられなくなると、栄養を十分に摂取できなくなり、筋肉が減って歩けなくなります。

大澤先生:女性ホルモンの低下に並行して、骨密度もガーッと下がっていきます。骨粗しょう症によって引き起こされる骨折の予防が重要に。そこで、閉経後の体調管理の一つとして、骨密度の検査をしてもらいたいです。また、血液中のカルシウム濃度をしっかり上げておくために、カルシウムやビタミンDを積極的にとってください。

閉経=女性らしさがなくなってしまうの?

Q.手術して卵巣を切除しました。女性ホルモンは私のカラダの中にはないのでしょうか。(50代)
佐藤先生:エストロゲンは主に卵巣から出ていますが、副腎から出ている男性ホルモン「アンドロゲン」が、体内の皮下脂肪に存在している酵素によってエストロゲンに変わります。ですから、卵巣を摘出した人や閉経した人にも女性ホルモンは出ていますよ。

一方、年齢によって女性ホルモンの数値が大きく異なるのは事実です。20代、30代で月経が順調に来ている人の女性ホルモンの数値は、約200〜400pg/mLだと言われています。それが閉経直後では約30〜40pg/mLに下がります。ずいぶん下がったなって思いますよね。さらに、閉経から数年経つと、約10〜20pg/mLまで下がります。ピーク時と比べて20分の1になることで、どうしても変化は出てしまいます。

Q.女性ホルモンが減っていくと、自分の中で女性らしさを失ってしまいそうで怖いです。このような気持ちのバランスを上手にとる方法があれば教えてください。(40代)
Q.日常生活の過ごし方、症状や自分自身との向き合い方について教えてください。(40代)

佐藤先生:私も今日は講演があるので、見えるところの白髪は抜いてきましたが…。20代のプリプリピチピチしたときと比べると、見た目に変化が出るのは仕方がないですよね。実年齢に対して、生き方や行動パターン、考え方のベストをその都度その都度、軌道修正していけたら良いのかなと、私も日々考えています。閉経は悪い話ではなく、月経時の出血や痛み、月経前の不調、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気のリスクから解放されるメリットもあります。マイナスの面だけではなく、プラスの面にも目を向けてみてはどうでしょうか。

月経トラブルと更年期の関係

Q.PMDDがひどいと、更年期の症状が出やすいというのは本当でしょうか?(30代)
八重樫先生:まず、PMDDとはどんな症状でしょうか。大澤先生、教えてください。

大澤先生:月経前になるとイライラする、むくむ、胸が張る、お腹が痛くなるといった状態を「PMS(月経前症候群)」と言います。月経開始とともにスッと症状が軽くなるのが特徴です。PMSのうち、精神的な症状が強く出ている場合を「PMDD(月経前不快気分障害)」と言います。

おっしゃる通り、PMDDが出ている人は更年期症状が強く出やすいという報告があります。また、更年期にあたる閉経前後5年は、PMS、PMDDの時期とも重なっています。この期間に起こるメンタルの不調は、どの症状にも解釈できてしまうわけです。だからと言って、何もできないわけではありません。更年期症状やPMS、PMDDには治療法がありますので、我慢しないでください。早めに対処すれば、乗り越えられます。

八重樫先生:月経前の不調と更年期の症状には関係がありますが、対処法もきちんとあります。あまり心配なさらずに、気になる症状があったら医療機関に相談してください。

「セルフケアや治療で症状は緩和できる」。「年齢による変化をマイナスに捉えすぎず、プラスの面にも目を向けよう」。先生たちの前向きなメッセージと具体的なアドバイスに勇気づけられました。普段からこうして疑問や悩みを相談できる“かかりつけ医”を見つけることが、セルフケアの第一歩だと感じます。

※このページの情報は2023年11月16日現在のものです。
【仙臺いろは編集部】

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